複雑・ファジー小説

Re: 【7/18*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.49 )
日時: 2013/07/22 14:52
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .p4LCfuQ)

■CHAPTER23■ 決死の逃走劇2-Each other-


『侵入者! 侵入者! 見つけしだい確保せよ!』

城内にウェルリア兵たちのざわめきが木霊する。
キリとイズミは息を殺してあたりを伺いながら、壁に沿って出口に向かっていた。
だがしかし、やっとたどり着いた出口は、既にウェルリア兵たちによって封鎖されていた。
別の脱出口を見つけ出さなくてはならない。

「ファーン家やレーゼの手の内のものが復讐しようとしているのを警戒してるんでしょうかねえ」
「イズミさん……どうしよう…………」
「そうですねえ」

キリが不安に満ちた表情でイズミを見上げる。無理もない。このような窮地は初めてであろう。
イズミはキリと共にその場へしゃがみこむと、押し殺した声でキリに告げた。

「キリさん。ここから先は、単独で行動しましょう」
「なっ、なんでっ……!?」
「静かに。声を抑えてください」
「だ、だってそんな……。私1人じゃ……」
「兵士たちの狙いはこの僕です。おおかた、リークくんが僕を捕まえてSクラスに上がるために、城中に噂を流したのでしょう。その方が情報収集も早いですしね」

イズミは冷静にそう言いながらも、周囲への警戒態勢は崩さない。

「ですからキリさんは、僕とは別行動の方が安易に脱出出来るはずです。さあ、行ってください」
「でも……」
「今、城側は、ウィルア家を敵対視する奴らへの対処に手をこまねいている状況にもあります。キリさんならこの混乱のスキに逃げ出せるはずです」
「い、イズミさんは……?」
「僕なら大丈夫です。……単独行動、賛同してくれますか?」

キリはこくりと頷いた。
不安な表情は変わらない。しかし、行動するよりほか無かった。

「それでは、落ち合う場所を決めましょう。湖周辺の森の中、……先程アスカ王子たちと話していた所で落ち合いましょう」
「分かった」

強ばった面持ちで首を振るキリ。
音を立てずに立ち上がると、しゃがみこんだままのイズミを見下げた。

「イズミさん、……気をつけてね」
「キリさんこそ」

キリはその声を聞くと、後ろを振り向かずにそのままその場を後にしたのだった。

その後ろ姿を見てほうと一息つくイズミ。

さて——と腰をあげ、廊下の角を曲がろうとして、

「——っ!?」

前方の気配に気づいた。

先程まで感じなかった気配。
見えない相手の足音が、徐々に近づいてくる。
息遣いからして、大人であることは確かだ。

——ウェルリア兵か……?

引き返そうかとも思ったが、そうすればキリと落ち合ってしまう可能性も考えられた。

——どうするべきか。

イズミは思案していた。

このままここでやり過ごすか。
いや、それは危険ではないか。
けれど、ここで地団駄を踏んでいても、結局どうしようもない。
ならば——。

ニヤリと唇を歪め、イズミは意を決して角を曲がった。


——敵方と落ち合ってしまった場合は、"強行突破するしかない"。

いささか手荒な手段であったが、今はそれしか良案が思い浮かばなかった。


イズミは、慎重に角を曲がった。
隠し持っていた短剣を懐で強く握り締める。


——刹那。

「…………!」

対面してしまった人物の、その意外な正体に、イズミは目を見開いていた。

「————貴方は……!」

イズミの顔から、笑みが消えていた。


++++++++++++++++

「単独行動って言ってもさああ」

息を押し殺しながら一人城内を走り回っていたキリは、同じく走り回っているウェルリア兵と危うく出会わないようにしながら、必死で脱出口を探していた。

「早くこっから逃げ出さないといけないってのに、何処なのよう、ここはあーっ!」

似たような造りをした城内はキリにとって、もはや迷路と化していた。
階段を登ったり降りたり、ここが今何階なのか、皆目見当もつかなかった。

「イズミさんはもう逃げ出したのかな」

ふとイズミの安否を心配する。
しかし、まずは自分の身を案ずるが先だ。

「どうしよう……」

安易に飛び出すと、捕まってしまうのがオチだ。

キリは先程、無我夢中で廊下の角を飛び出してしまった結果、お団子頭のお姉さん(メイドさん)に鉢合わせしてしまうという大失態をやらかしているのだ。

その際は笑ってなんとか誤魔化したので捕まることはなかったが。


「さすがに次に出会ったら、捕まる、よね……」

身震いをして、辺りを伺う。

今キリが身を置いている場所は、石材でできた階段の途中であった。
階段は螺旋らせん状になっており、石で出来た窓枠には何もはまっていなかった。

「どうしよう。どうしよう……」

石の窓枠に手をかけて思案する。
そこから身を乗り出して外を覗いてみると、すぐ下には湖が広がっていた。

「……やってみるしかないか、な」

キリのいる場所から湖の海面までの距離は10メートル弱であった。
建物の三階建ての高さである。

常人がこの高さから飛び込んだ場合、下手をすれば怪我をする恐れがある。
しかし、キリは小さい頃から、絶壁からラプール島の海へ飛び込んでいる身だ。


大丈夫、大丈夫。生きて帰れる。

「一か八かよ、キリ。いざ尋常にっ……参るっ!」


窓枠を乗り越え、キリは空中に躍り出ていた。
風圧でプリーツスカートがぶわっと広がる。

「〜〜〜っ!!」




突如、鋭い頭痛がキリを襲った。




——痛い。


 ガンガンする。

頭が。


  割れるように、

痛 い。

 なん、で 。

        突然——。



腰に提げていた短剣を思わず掴み、キリはそのままものすごい勢いで水面へ飛び込んでいた。

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