複雑・ファジー小説

Re: コワレモノショウコウグン【R-12〜18】 ( No.3 )
日時: 2013/12/26 10:36
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Z9bE6Hnf)


【束縛】(7/31 いちほ解禁)


 引き千切られた翼を擦って、僅かな痛みに苦鳴を漏らして——。
 何時ものように晴れた空は、小さな格子を挟んで輝いています。

「空が貴方を抱くのが嫌い」

 貴女がそう言うのなら、僕は地を這う運命も受け入れます。

「その羽根が貴方の温もりを感じるのが嫌い」

 貴女がそう言うのなら、翼は空へ捧げましょう。
 今日も空は輝いています。
 あの蒼い光りを見ると、今でも無くした翼が疼きます。
 それを知っていて、きみは此の窓を格子だけで遮ったのでしょうか?
 そう考えると、貴女が編んでくれた背中の飾りが、なんだかとても美しいものに感じます。
 貴女が強く求めてくれた、僕の心を試しながら、僕を逃がす気なんて少しもない。
 そんな貴女が酷く美しく感じます。

「いつも側に居るよ、それが優しさなら」

 そう呟いて、小さな格子を見上げます。

「だけれども、夢の中でぐらい、あの空を想っても良いでしょうか?」

 僕は貴女を愛しています。
 冷たいバスタブの縁へ腰を下ろして、ひび割れた鏡に自分の姿を映して、僕は少しだけ笑みが零れるのを感じました。
 身体中の傷が貴女の愛を受け入れた証し、この手足を繋ぐ枷が貴女の愛を受け入れた証し。
 この、元は白い翼のあった背中が、今は赤黒い乾燥した血糊と、貴女が編んでくれたコルセットピアスが飾る背中。
 じゃらりと重たい鎖を鳴らして、僕はバスタブに無造作に突っ込まれている毛布を、元は窓だった格子にねじ込みます。
 僕が空を捨てる。 これは、僕が貴女を愛した、精一杯の証です。
 だけれども、夢の中でぐらい、ほんの少し、空を想っても良いですか?

「貴方の全てが欲しいの。 私を、愛しているでしょう?」

 今朝方、僕に宛がわれたこの血で汚れた浴室を訪れた貴女は、そう言って僕に口付けました。 貴女の綺麗な爪が僕の胸を引っ掻いて、貴女の薄い舌が僕の口内を犯して、貴女の鋭い瞳が、僕の目を射抜いて。
 そうして貴女は毎朝そうするように、僕の背中で芽生えた新しい羽毛をむしり取りました。
 元は白い翼だったはずの弱々しい羽毛が、また赤黒く染まるのを見て笑う貴女。 その毒々しい独占欲は余りにも凄まじくて、僕は、それを美しいとさえ感じます。
 僕は捧げましょう。 全てを捧げましょう。
 帰宅した貴女の足音を聞きながら、僕は巡り来る運命を悟りました。 良いのです、貴女がそう望むなら。
 白いドレスで浴室へやって来た貴女を、僕は強く抱き締めました。
 鉄の枷に痛め付けられて赤く痕のついた手首が、貴女の白い肌を際立たせてくれたら良いな。
 でもね、貴女は最期まで気付いてはくれなかった。 僕はずっと、傍に居ます。 もしもまた会えたら、今度は一緒に、空を飛ぶ夢がみたいな。
 貴女の手に収まった、半分ほど僕の胸に埋まった真新しい刃物を眺めてそんなことを想う。
 ごめんなさい。 貴女の不安を、拭い去ることが出来なくて。 それでも疑わないで欲しい。 僕は貴女の全てを愛していました。
 ポキリ、と鳴る枯れ枝が折れるような音は、果たして誰が聴く葬送の歌でしょう?
 願わくばそれが、鉄の臭いばかりが蔓延こる浴室に倒れた、一組の男女の為のものでありますように。

* * * *

fin.

ちょっと分かりにくいと言うか、ざっくばらん過ぎる気がするので>>6に少しだけ解説というか蛇足と言うか、この話はつまり何なのか、と言うのを。