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複雑・ファジー小説
- Re: 神様の戯れ事 ( No.20 )
- 日時: 2014/03/22 12:38
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 06An37Wh)
*
その「たまり場」には、男の子が一人居たんだ。冷たいコンクリートの床の上、膝を抱えて眠っていた。
そう、その通りだ。
彼は鍵だった。文字通り、僕にとっての大事なね。
消えた記憶はどこへ行くんだろうか。君は知っているようだけど、もちろん、教えてくれないだろうね。ほら。
*
男の子について金堂に訪ねると、彼は目線を地面に落として語り始めた。
「イツキと言うんだ」
金堂によると、男の子は、この街のスラム街寄りの場所にある駄菓子屋の子供だそうだ。年の離れた姉が細々と切り盛りする店。両親を亡くしながらも、幸せに暮らしていたというが、ある夜から姉の姿が見えないのだという。
世知辛い世の中だ。ある小さな家の柱が消えたことなど誰も気づかない。助けてやる余裕がないのだろう、この貧民街の住人は自分のことで手一杯なのだと金堂は言った。
しかし、金堂には余計な世話を焼く余裕があった。俺は彼がどのように生活をしているか知らないが、金や食料には困っていない様子である。イツキという少年を保護する目的で、この建物へ連れてきたらしかった。
「……妙なことがあってな」
彼はひとしきり語り終えたあと、間を置いて呟いた。声は低く、ただならぬ雰囲気に、俺は唾を飲みこみ、次の言葉を待った。
しかし、その先は金堂の口から発せられなかった。
金堂が再び口を開いたとき、視界の奥で少年が動いたのだ。目をこすり、あくびをしながらこちらへふらふら歩み寄り、イツキは言った。
「ああ、おねえちゃん、おかえりなさい」
振り返っても、汚れた壁があるばかりである。少年は、俺の背後を見てその言葉を言ったのだ、間違いない。のに。
俺は金堂と目を合わせる。彼は長く息を吐いた。
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