複雑・ファジー小説
- Re: 神様とジオラマ / 第二章進行中 ( No.34 )
- 日時: 2014/03/26 14:37
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 06An37Wh)
場所を知られてはいけないのか。私はぐるぐる連れ回されてふと思った。近道をすれば数十分の道を、青年は一時間かけて歩いた。
足の疲れも深刻になってきた頃、見覚えのある道に出る。
「もうすぐだよ。長く歩いて悪かったね。着けば休憩ができるから……」
労いの言葉をかけてもらいながら、看板の前を通り過ぎ、この間は手を触れなかった両開きの扉の前に立った。
青年は目を泳がせている。何か、通過儀礼があるのだろうか。
扉の先は廊下が続いている。吉祥天のところとは違い、嫌に白い蛍光灯が明るく照らしてはいるが。
そんなことを考えているうちに、扉が開いた。青年の緊張は解けた様子だ。彼に続いて、中に入る。
扉の影には、右側、左側、それぞれに人が居た。学生服を着た男の子と、ブレザーの女の子。奇妙なことに双方、狐の面を被っている。無感情な細長い眼は、合わない。
彼らを横目に廊下の先のエレベーターに乗りこんだ。青年は一番上にあるボタンを押す。数字は書いてはいなかった。
ホラー映画のような、どこか病院の雰囲気のある、このビルは果たして何階建てなのだろう。落ちたらただじゃ済まないことは確かである。
目的の階に着くまで随分時間がかかった。
エレベーターの扉が重々しく開く。冷えた一階とは違い、温い空気がエレベーターに吹き込んだ。
「ここからは君一人で」
やや不安だったが、私は箱を出て長い廊下に踏み出した。周りを見回しつつ、歩みを進める。
やけに光が赤いと思ったら、蛍光灯に赤のフィルムが貼ってあった。まあ安っぽい。
行きあたったのは、また扉だ。
横にスライドして開けるらしい、病室。私は私の非力では重い扉をやっと開け、部屋に入った。
「ようこそ、わが帝国へ」
セーラー服の女の子が手を広げて言った。壁に面したベッドにあぐらをかいて座りっている。耳にかからない短い髪、狐面、赤いマント、素足には、下駄。スカートの長さから見て、中学生くらいだろうか。赤い蛍光灯の光に照らされて。
「まあ、座ってよ」
足も疲れていたことだし、私は言葉に甘えてベッドの傍にあった質素な丸椅子に座った。
「それで? 入信希望かい?」くぐもった声。
「はい」
「そうか。じゃあ、何か、願い事は?」
願い事? 私は考えた。何かを言うべきだろうか。何か、言おうと思うのだが私にはどうにも、夢も希望もない。
「……まあ、迷うよな。焦らなくていいよ。決まったらもう一度来い」
彼女は静かに笑う。
「あたし、どんな願いでも叶えてやれるんだ」
狐面を摩った爪の伸びた指で、彼女は自分を指さした。
「帝釈天。様を付けて呼びな、夕月」