複雑・ファジー小説
- Re: 神様とジオラマ / 第二章進行中 ( No.36 )
- 日時: 2014/04/09 23:26
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 06An37Wh)
コーヒーは無条件であまり美味しくない。彼の淹れたブラックに、砂糖やらミルクやら色々加工をしてようやく口に運んだ。
「ああ、そうだ。それを使う時が来たわけだ」
御影は私の傘を指して言う。
「その傘は、創造の傘だ。まあ、言うなれば……神様の杖ってところかな。ああもちろん、れっきとしたホンモノのね」
「創造」
「バランスをとるためさ」
コーヒーはまだ少し苦かった。
「空間、風、音……。具体的な物は出せないけど、君の好きなように使うといいよ。打撃もできるわけだし」
「……頑張るわ」
砂糖を継ぎ足す片手間に、スプーンを振って適当に応えた。彼はそうしろ、と言った。
神話のようだ。これが神様の杖ならば、神様の趣味は案外乙女チックだと、冷めてみる。
私の眠気もすっかり覚め、窓の外、街はいつの間にか夜明けを迎えている。
窓から見下ろす街の影が彩りをみるみる取り戻していく様子を見ていた。東の空は白々としている。黎明、新しい何かが起こりそうな、予感。
夕月とは対照的に、今この瞬間私にとっては何か良いことの前兆のように感じた。街にかかっていた霧が晴れていくようなイメージが脳裏に存在する。
「そろそろかな」
御影が灰色のコートを羽織った。
*
人の気配のしない朝焼けの街は、どこか神秘的であった。白っぽい大気の覆う街の中、下水の流れるかすかな音と、朝露に濡れる街路樹。気分が良い。冷たいはずのこの街に、愛おしさすら感じる。一人ならもっと気持ちよかっただろうが。せめて御影とでなければ。
私たちは特に会話することもなく、朝焼けの光が照らす『帝国』本部に着いた。
昨晩とは違って、活気……いや、雰囲気。安っぽい禍々しさ、仰々しさ、胡散臭さ、そういったものが綺麗さっぱり拭われていた。相変わらず扉の奥は暗いが、ただの廃院だ。
「待って」
扉に手をかけようとした腕を御影が掴んだ。彼は何をしているのか。眉を寄せ、何かを懸命に見ようとしている。目は閉じられているのに、そういった印象を受けた。
「三十……いや、四十人。結構いるね。ああ、武器持ちだ。……一階に半分。護衛かな」
「…………」
何をしているのか問おうと思ったが、思いとどまる。邪魔をしてはいけないだろう。
それが終わるのをじっと待っていると、彼が目を開いて口元を釣り上げて笑った。
「いける。確実だ」