複雑・ファジー小説
- Re: 神様とジオラマ ( No.45 )
- 日時: 2014/05/05 00:06
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 06An37Wh)
金堂が腹をさすりながらさも不愉快そうな顔をしている。女の影を見たときのあの喜びはどこへ行ったのか。
「水を大量に飲まされた感じがする……しかもあの色だもんなぁ」
そういうと、軽くえづいた。
俺も気持ちは悪かったが、彼の言葉を聞いていると本当に体調が悪くなる。気の持ちようで変わるものだ。
「それで君は……」
言いかけたものの、何を尋ねたら良いか分からない。何者か。名前は。さっきのは。それらはきっと、彼女には分からない。俺もそうだった。俺には、体験がある。それらはきっと、彼女に似ている。
「君は、行くところがあるのか?」
それなら、彼女が聞かれたいことを言えばいい。案の定、彼女は首を横に振った。
「そう、なら……」
「俺らの所に来るべきだよな、そうだろ露木?」
俺は頷いた。転換の早い奴だ。表情に色が戻っている。
*
まだ昼で、太陽など沈む気もさらさら無いような顔をしているが、来た道を引き返すことにした。街の終わりをこの目で見ることはできなかったが、人助けだ。こちら側の人間の。
坂を下りながら、俺は彼女に予想済みの返答を求めた。
「名前は?」
「さあ」
「どこから来た?」
「……さあ」
「以前の記憶は?」
「…………ないわ」
表情はだんだん暗く沈んでいく。それにしても美しい顔をしている。それは何と言うか、芸術的だ。芸術的に、どこかすこし狂っている。美しいが、あまり長く眺めると精神が拒絶する。
「大丈夫だって」
金堂が一生懸命、彼女を励まそうと大げさな手振りをした。
「俺らも同じようなもんだし。な?」
「そうだ。子供の頃の記憶はないし名前だって無かった」
努力も虚しく。
「……貴方たちには名前があるの」
「ああ。俺は金堂で、こっちが露木」
それでも諦めない姿勢は評価できよう。
「そう……」
何となく、思った。俺や金堂の名前は誰が決めたのだろう。御影か? それともまた、帳尻合わせの神様か。
この世界に生きていると、疑問が多すぎて好奇心すら不足する。