複雑・ファジー小説
- Re: 神様とジオラマ ( No.50 )
- 日時: 2014/05/26 15:12
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 06An37Wh)
そうだろうか、疑問に思う。何を理解しているというのか。
それを彼女に伝えると、音無は困ったように笑って、言った。
「露木くんが理解できないことはないんじゃないかな」
疑問は増すばかりである。俺は彼女に適当に別れの挨拶をして、拠点に戻った。
鉄の扉を開けるなり、金堂が青い顔をして出てきた。酷く慌てた様子で。
「どうしたんだ?」
「あの子が」
彼は早口で答えた。
「どっかいっちまった」
「彼女のこと見ていなかったのか? 出先に頼むと言ったはずだけど」
「知らねえよ」
残念ながら、寝癖から察せる。
「探してくる」
後ろから引き止める声が聞こえたが、聞こえなかったふりをした。
*
あてもなく歩き出したわけではなかった。御影の所にいるのだろう、何となくではあるが、ほとんど確信に近い感覚があった。自分の勘は尊重すべきだと思う。とくに、その自分が俺であるなら。
音無が言っていたことが分かった気がする。歩きながら考えた。それでも。
俺に理解でいないことはない。能力的なことを言っているのだろう。だが、それだけだ。思うに。俺が人間として、理解しているわけではない。音無は、違いはないと言うのだろうか。
霧が出てきた中心街の中。夕方の淡い緋色照らされて。夕月を後ろに。御影のマンションは変わらぬ様子で佇んでいる。
「ああ、彼女?」
「ここに来てるか?」
御影は少し、難しそうな顔をした。
「来てはいるんだけど。たぶん、君には会えないね」
「そうか」
理由を尋ねるつもりはなかった。聞いても、教えてくれないだろう。
上手に煙に巻かれてしまって。
「伝えたいことがあるんだ。伝言を頼めるか?」
「いいよ」
一方的ではあるが。
「吉祥天。名前だ。そう、伝えてくれ」
彼は驚いた顔をした。
「想定外」
伝えておくよ、と手を上げ、扉は閉まった。
シュリー。吉祥。幸運という意味だった。彼女に足りないものだった。
*
マンションを出て、黒い地に足を付けた時だった。それは不意に、まさに俺が生まれた、その現象のように降ってきた。
頭痛だ。 この世の悪い部分を全て、一度に見たかのような激しい痛みに、耐え切れず頭を抱えてしゃがみこんだ。気がついた。今、自分の身に、世界にとって最悪の出来事が起きている。
ああ、どうして。どうして、君は来てしまったのだ。
思う。神は居なかった。