複雑・ファジー小説
- Re: 神様の戯れ事 ( No.7 )
- 日時: 2013/12/13 23:44
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: TcM2SN2X)
◇
「お目覚めかい?」
ふかふかしたソファに座らされ眠っていた私が目を覚ますと、丁度正面の扉が開いてさっきの男が現れた。
私は抵抗する気力もなく、男の方にも敵意は感じられなかったため、じっとしていることにしよう。本当は、跡を引く眠気に身を任せていたいが為である。
男は両手に持っていたマグカップを片方、私へ差し出した。素直に受け取り、暫く手の中に収める。
カップの中身は紅茶であった。紅茶は、湯気を立たせて私の手を温める。
冬の屋外で長時間活動していた私の手は冷たく震え、動かなかった。
「気分はどう?」
男は笑った。
「あんな危ない所で寝てるからさ、連れてきちゃったよ」
溶けかけた私が、再び凍りついた。
目も覚める。体温がさっと下がっていくのが自分でも分かる。
どういうことであろう。
「ま」
掠れた声を搾り出した。
「待って。私が、どこで寝てたって?」
「あの貧民街の路地の隅の方だって。覚えてないの?」
それじゃあ、あの紙袋を被った物騒な男たちは?
夢だったとでも言うのだろうか。それとも、この男がしらばっくれているだけだろうか? いやしかし、落ちるというのも馬鹿な話であるから、やはり夢だったのだろうか。
考え込む私に、男は言う。
「まあ、飲みなよ。寒かっただろう?」
男の表情はなんとも不気味であった。さっきの笑顔とは違い、口元を釣り上げこちらを小馬鹿にしたような。
ふらふらと歩き回る男を横目に、私は言われるがままに紅茶を啜った。
美味しかった。飲んでから気づく、迂闊だった。
この紅茶に毒や薬が入っていたら終わりであった。どうやら彼は、警戒心を解くのが得意らしい。
彼はじいっと睨む私を見て、くすくすと笑った。
「きっと君は僕に聞きたいことがたくさんあるだろう。だけど、まあ、待て。時は直に、自らのこのこやって来るさ」
私のソファに手を置いて、彼が言う。
「取り敢えず、今の君に必要なのは紅茶と休養だね」