PR
複雑・ファジー小説
- Re: 神様の戯れ事 ( No.9 )
- 日時: 2013/12/22 21:58
- 名前: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y (ID: TcM2SN2X)
◇
カップの割れる音がして、目を覚ました。
膝の上で握り締めていたからのマグカップが床に落ちて、破片になっている。どうやら気づかぬうちに眠ってしまっていたようだ。
男の姿は無かった。照明は落ちていて、今にも消え入りそうに弱々しく揺らめいている暖炉の灯りがほのかに辺りを照らしている。窓のカーテンは閉まっていた。今は夜なのだろうか。
少し頭が重い。自分の手を見る。指を広げ、閉じてみる。ちゃんと動いた。白い袖口に、紅茶が少し染みていた。私は、白いワンピースを着ているようだった。手触りのいい毛糸で編まれている。
散らばった破片を拾おうとソファを降りて屈むと、扉が開いて、男が部屋に入ってきた。
「ああ、割れちゃったか。いいよ、僕が片付ける」
男がそう言うので、私は少し離れたところへ移動する。
彼はかけらを拾い、部屋の奥からほうきを取ってきて、床の掃除を始めた。
ワイン色のシャツに黒いネクタイと、服装がさっきと変わらないところを見ると、寝ていたわけではなさそうであるが、彼はとても眠そうであった。
「コーヒーでも淹れようかな。君もなにか飲む?」
「遠慮する」
再び部屋の奥に消えた彼は、マグカップを手に戻ってくると私が座っていたソファの右端に座った。
座りなよ。私は彼の言葉に甘え、ソファの左端に浅く座った。
「寒いね。こんなに寒くて寂しい夜は、どうにも人肌が恋しくなる」
彼の表情には、濃く影が映っていた。目は遠く深い、どこかを見つめている。小さいけれど、力強い声だった。私は何も言えず、ただ黙っていた。
「それでも僕らは、僕らの使命を忘れちゃいけない」
彼が言う。
「全ては我らが神の為に」
PR