複雑・ファジー小説
- Re: 鬼世姫〜KISEHIME〜 ( No.16 )
- 日時: 2014/05/19 13:43
- 名前: 結縁 ◆hj52W3ifAU (ID: wPqA5UAJ)
第二話【六鬼と鬼世姫】
鬼王村に着くと先程片付けた部屋に布団を敷き憂葉を寝かせた。
村まで憂葉を抱えてきたのは九条だった。道中、久留乃にズルいズルいと言われ続けたせいか若干疲れているようだった。
「目、覚まさないね……」
心配そうに言う久留乃に対し答えたのは黒宮だった。
「鬼変してたとは言えやりすぎたんじゃねぇか?」
鬼変……それは鬼世姫のみに見られる症状で血に飢えた暴走状態を示すものだった。
低い声でそう言う黒宮の視線の先は柱に寄りかかり本を読む茨木に向けられていた。
が、例のごとく茨木は反応一つせず本を読み進めていた。
そんな空気の中で一番冷静でいたのは六鬼の中で最年長である笠間だった。
笠間は憂葉の手がわずかに動いたのを見逃さず、この場にいる皆に告げた。
「皆さん静かに。どうやら姫君がお目覚めの様ですよ」
笠間の言葉に皆の視線が憂葉へと向けられる。
憂葉の姿は依然と変わらず、鬼そのもののままだった。
彼等は内心思っていた。自我が戻っていなければ、また気絶させるしかない。
逆に自我が戻っていても己の姿と自身の行った行為を思い出し壊れしまう可能性もあるのだと。
そうなれば、殺すしか道はなくなってしまう。だから、彼等は口に出さずとも願っていた。
ーー殺さずに済めばいいと。
◆ ◆ ◆
ーー夢を見ていた気がした……とても怖い夢をーー
「ん……」
深い意識の奥底で話し声が聞こえた気がした。
最初は気にならなかったその声は少しずつ大きくなっていって……私は真っ暗な場所から目覚めたの。
「姫君? お目覚めですか?」
ゆっくりと重い瞼を開け、自分の状況を確認する。
天井……? と言うことは、やっぱり私眠ってたんだ。そうだよね、あんな恐ろしいこと夢でない訳がない。
そう自分に言い聞かせるように胸に手を当て息を吐く。するとそこでようやく向けられる多数の視線に気がついた。
「姫ちゃん? もしかしてどっか苦しいの?」
姫ちゃん……? そう声を掛けられて、体をゆっくりと起こす。何故か少し腹部が痛かったが気にせずに声の方を見渡してみた。
そうして硬直せざるを得なかった。何故なら夢で最後に見た六人が目の前に居たのだから。
「……な、んで……」
自然と震える声、そして考えてしまう最悪の現実。
その恐怖からか私は両手で口元を覆い黙り込んだ。
「姫ちゃん…?」
「どうやら、正気ではあるようですね。可哀想にこんなに震えて……」
「仕方ないだろう。あんなことがあった後だ」
「……姫、話さなければならないことが沢山あるのですが……落ち着いて聞いて頂けますか?」
目の前に居る人達が誰で此処は何処なのかは分からない。だけど不思議と恐怖を抱くことはなかった。
むしろ、今一番怖いのは……自分だった。
「九条、話すことが多いのは分かるがせめて着替えてもらってはどうだ? ……此処にも血の臭いが充満している」
そう告げたのは黒い着物を着ている男性だった。
血の臭い……? 私を見てそう告げた男性の言葉に改めて自身の服を見てみる。
そうして後悔した。見なければ良かったと。
「あ……ぁぁ……ぅぅ……」
自分の姿を見た瞬間、激しい吐き気と息苦しさに襲われた。だって、そこには、返り血を浴びて赤黒く染まった服があったのだから。
「姫……っ!」
駆け寄って来たのは、九条と呼ばれていた男性で吐き気が治まるまで背中をさすっていてくれた。
「……すみません……少し一人になりたいのでお風呂、貸して下さい……」
ようやく落ち着いた私に彼等は先に話してくれた。
私のしてしまった罪とこの場所と彼等についてと……私がこれからしなければならないことと。
他にも現実離れした話を幾つか聞かされた。だけど、すぐにこんなこと認められるはずもなくて。とにかく一人でゆっくりと考えたかった。
「分かりました。姫が望むのであれば……」
そう言ってお風呂の場所を教えてもらう。私は着替えを借りて、一人歩き出した。
◆ ◆ ◆
憂葉が部屋を出た後、彼等はただ心配そうに話していた。
「姫ちゃん辛そうだったね……」
「だが、俺らには待つことしか出来ない」
「それはそうだが、大丈夫か? あんな状態で一人にして」
「姫の希望だからな……。それに一人で考える時間も必要でしょう」
「……それには俺も同意だ……」
「今は見守りましょう……姫君の選択を」
六鬼はそれ以降一人として話さず憂葉が戻るのを待った。