複雑・ファジー小説
- Re: 鬼世姫〜KISEHIME〜 第四話更新【コメ欲しいです】 ( No.30 )
- 日時: 2014/05/19 14:03
- 名前: 結縁 ◆hj52W3ifAU (ID: wPqA5UAJ)
第五話【不器用な優しさ】
「あ、あの……やっぱり迷惑、でしたか…?」
「……」
先程までと違い、驚くほど静かな室内で、私は正座、茨木さんは柱に寄りかかる形で一緒にいた。
何故、こんな状況になったかと言うと……時を少し遡り、10分程前のことだった。
◆ ◆ ◆
私が顔を真っ赤に染めて、あたふたとしている間に六鬼の間で、やり取りがあった。
それは、まぁ、半ば放心状態でいた私のために皆が話し合い? 決めてくれたんだけど。
そのやり取りが、以下のものである。
「ここは、やっぱり俺でしょう! だって一番無害そうだもんね」
「無害? どの口がそんなことを言うんですか? 有害の間違いでは?」
「うわっ、蝶羽酷い! まださっきのこと根に持ってるの!?」
「姫君、僕はどうでしょう? この中では安全な方だと思いますが」
「いやいや、ここは俺に任せて欲しい。何せ他の奴等は女の扱いになれてないだろうしな」
「ちょっと! そこの二人! 勝手に姫ちゃんを口説かないでよね!」
「これは……本格的に収集つかなくなってきたなぁ」
賑やかに話す彼らを見て、ますます困ってしまい何も出来ずにいると、今まで黙っていた茨木さんが口を開いた。
「……決まらないなら俺が共にいよう……」
読んでいた本を閉じて、未だ言い争う皆にあくまでも淡々とそう提案する。
茨木さんが言い終えると騒がしかった室内が数秒間、時が止まったかの様に静まりかえる。
その中で最初に口を開いたのは笠間さんだった。
「確かに、茨木に任せるのが妥当かもしれませんね。妙な下心もないでしょうし」
「だが、考えようによっては一番不向きではないか?」
「そうは言っても、このまま言い争ってても埒があかねぇぞ」
「仕方ないですね……姫さえ了解して頂けるなら、今夜の共は茨木に任せるとしましょう」
「何か納得いかないけど、姫ちゃん、ここはもうハッキリさせちゃって!」
と、こんなやり取りがあり、私と茨木さんは一緒にいる。
勿論、遠慮することも考えたんだけど、静かな茨木さんと一緒にいると少し落ち着くような気がしてお願いしたの。
私が茨木さんにお願いすると皆に伝えると、それぞれ違った反応があったけど、最終的には、私の意見を尊重してくれのだ。
◆ ◆ ◆
そんな皆の気持ちに応えるためにも、もう少しお話出来たらいいんだけど……。
二人きりだと意識してしまって上手く話せないでいた。
もう一度、声をかけてみて、返事がなかったら眠ろう。そう決めてから改めて声をかける。
「あの、茨木さんは、その、寝ないんですか?」
私なりに考えて訪ねてみたけど、やっぱり返事はなくて……。諦めて敷かれた布団に手をかけたときだった。
「……先程からお前は俺を誘っているのか?……」
「ぁ…っ……」
答えてくれた。そう思い言葉を続けようとしたときには、茨木さんに腕を引かれ、その大きな胸の中に包まれていた。
「ぇ、ぁ、あの…っ…」
どうして抱きしめられているのか分からず、声が震え鼓動が高鳴っていく。
「……黙って体を預けていろ」
「っ……」
そう茨木さんは言うと、驚くほど優しい手つきで髪を撫でてくれる。そのおかげか、緊張もだんだん解れてきて……。
温かい……それに茨木さんから聞こえてくる鼓動が心地いい。
ゆっくりとした鼓動、だけど力強くて……。
「美味し、そう……」
美味しそう、どんな味がするんだろうか、彼の血は。知りたい。飲みたい。味わいたい。
そんな気持ちでいっぱいになって気づいた時には、茨木さんの首筋に喰らいついていた。
「っ……それで、いい。それで、間違っていない」
どれだけの時間、そうして狂ったように溢れる血を貪っていたんだろう。
私が正気に戻ったとき、茨木さんと私の衣服は真っ赤に染まっていた。
「あ、ぁ、私は……また……っ」
自分と茨木さんの姿を見て逃げ出したくなる。だけどそれは許されず、代わりに温かく柔らかいものが額に触れた。
「えっ……?」
「落ち着いたか? ……俺は何ともない。それよりも自分の姿を見てみろ」
今、された出来事を考えるまもなく、茨木さんに鏡で姿を確認するように言われる。
訳が分からないまま、言われたとおり見てみると……。
「うそ……戻ってる……」
化け物のようだったその姿から、人の姿へと私の姿は変化していた。
「どうして……?」
疑問をそのまま口にすると、血を手拭いで拭き取ったらしい茨木さんが教えてくれた。
「俺の血を飲んだからだ……六鬼の血を飲めば一時的に戻る」
茨木さんはそれだけ言うと、手拭いと服を渡してくれる。
「着替えたら寝ろ……もうじき夜明けだ。それと……すまなかった」
「え? あ、はい…」
部屋を出る寸前に、謝罪の言葉が聞こえた気がしたが、何に対するものか私には分からなかった。
むしろ、謝らないといけなかったのは私の方なのに。
「……何時か聞けるといいな…」
そんな呟きは茨木さんに届くことはなく、既に室内には私だけが残る形となっていた。
けど、外へ出てくれたのは、着替える私に気を使ってくれたのかもしれない。
「有り難うございます……おやすみなさい」
不器用な、でもその気遣いが嬉しくて、部屋の外に居るはずの茨木さんにお礼を言ってから眠りについた。