複雑・ファジー小説

Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.3 )
日時: 2013/07/28 17:41
名前: 明衣 ◆ZVbBSoYxm. (ID: J7xzQP5I)

Ⅱ.みんな


 ああ、またつまらなくなって来た。教室の中、女子で集まって個人的に面白みの無い話をしている。正確に言うと、聞いているだけだ。こんなに楽しくない会話を笑って聞いてる私って可笑しいのかな。それとも、『みんな』と違って変なのかな。まあ、どっちでも良いよ、嫌われなければ私は良いのだ。

「あかね!聞いてんの?」

「あ、うん。聞いてるよ。のぞみちゃんの話すっごい楽しいからね」

 グループ、というか、クラスの女子のリーダー的存在の甲斐のぞみが上から目線な言い方で睨むように聞いて来た。だから私はのぞみちゃんの機嫌を損ねないように優しい感じにおだてを含ませて言った。すると、案外単純な性格の彼女はふんっと鼻を鳴らして言う。

「た、楽しいと思ってるなら、ちゃんと聞いてるって感じでいなさいよ」

 それに続いて、のぞみちゃんの近くにずっと一緒にいる何人かの女子が口を妙な形、縦長に開いた。

「そう、そう。のんちゃんの言う通り」

「素直に楽しいならもっと話せば良いのに。そしたら聞いてるって分かるしね」

 私は満足げに自分を見下ろしたクラスメイトに、そっと微笑んだ。
 
「そうだね。ごめん、のぞみちゃん」

 分かればいいの、と普通の人なら何様だよって突っ込みたくなるような口調ののぞみちゃん達は、また芸能人だのアイドルだのの話を始めた。バーカ。この私がのぞみちゃんのくだらない話が楽しいわけないじゃん。思い上がりのし過ぎに思わず笑いそう。それに、私が口出しするように話しても逆ギレするだけでしょ。
 
 朝日羽小学校五年二組——私の通うクラスでは階級社会が出来上がってしまっていた。今は七月の上旬。この形が出来て来たのは五月の終わりの辺りからだったかな。まだ新しい学年になってそんなに時間は経っていなかったのに、のぞみちゃんが威張ってクラスの女子達を自分の思い通りにしようとした。結果はのぞみちゃんの計画通りで、クラスの女子はほぼみんな言いなり状態になってしまった。
 ほぼ、と言うのは例外がいるから。一人だけね。私はたった一人で分厚い文庫本を静かに読んでいる『あのこ』を見つめた。例外の女子、それは片瀬日和といった名前を持つ、誰からも興味を持たれなかったクラスメイト。いや、誰からもというと嘘になる。


——だって、私は片瀬日和が羨ましかったから


「あ、鐘が鳴った。席に戻んなくちゃね」

 誰かの声。知ってるけどフルネームを思い出してあげる程の仲ではないことは確かだ。第一、私には本当の友だちはいない。違う、私は『みんな』である友達はいらないと思ってる。自分は本当に変だなぁ。のぞみちゃん達に言ったら面白いことになりそう。でも、先生とか家族とか巻き込んで大変かな。
 
 先生が来る前には席に着いていろ、といつだったか担任に言われていたのを思い出して、私は古びた感じの木の椅子に座った。
 
 片瀬日和、勝手に呼び捨てするより片瀬さんの方が良いかな。その、片瀬さんは要領が悪いというだけで省かれたのだ。もともと本人は仲間意識なんてものなかったと思うけどね。

「ん、みんなちゃんと先生が来るまでに座ってて偉いな」

 先生は背が高いから上から見下ろされているように見える。担任の若い男性教師は名字を遠藤とだったのは覚えているけど、下の名前は何だっけ。
 ああ、そうだ。私は友達に限らず人全般に興味が無いのかも。今頃って感じでもあるけど、そういう人って意外といるものなんだ。父親がそうだったらしい。覚えてるって言ったら覚えてるけど、あんまり正確には覚えてないんだよね。ただ、お母さんが言ってたのは、あかねのお父さんは人に興味がなさ過ぎる人だった、って。死んだのではない。そこそこ頭の働く人だったらしいから生きてるでしょうね、って言ってたのはおばあちゃんかな。


Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.4 )
日時: 2013/11/28 22:27
名前: 明衣 ◆ZVbBSoYxm. (ID: cm34dabg)

 あまり分かりやすいとは言えない授業が、やっと全て終わった。
 放課後。日直の私は、もう一人の日直である上総が帰ってしまったために、たった一人で日誌を書き上げる。上総は、数少ない名前を覚えてるクラスの男子。上総俊。成績は悪くなく運動神経も良いのに、日直の仕事をとことんサボるウザい男子。それがこの一学期で私の中に固定されたイメージだと思う。

「失礼します」

 カーキ色のファイル形日誌を抱えて職員室に入った。涼しいというより寒い。何で職員室だけこんなに冷房かかってるのか、永遠の謎だよね。ま、そんなことどうでもいい訳でして。遠藤先生を中庭側の窓近くに見つけた。

「おお、東福寺か。偉い偉い。ちゃんと書いてきたな。ん?上総はどうした?」

「……私が出しに行くから先に帰っていいよ、と言いました。駄目でしたか?」

 …………私って人のピンチを救うキャラだったっけ?違う気がするけど、考えるのは面倒だ。あ、面倒。そうか、面倒だ。東福寺あかねは二人で先生に言い訳を言うはめになるのが面倒だったのか。意外に早く答えが出たなぁ。

「お、そうなのか。んじゃ、おっけぇ〜」

 笑えない。先生はリズミカルじゃなく妙に伸ばした返事が生徒にウケると思ってるのかな。どうでもいいけど。

「さようなら」

 あいさつは欠かさずにする。印象が悪くなって何かあったときに直ぐ家の人を呼ばれては困る。おばあちゃんとおじいちゃんも一緒だとはいえ、私と幼い弟たくの生活を支えるお母さんに迷惑はかけたくない。

「気を付けて帰れよ〜」

 別のことを考えていたから、先生の声が遠く聞こえた。


——私は今、とても驚いている。


 目の前にはTシャツを黄土色の土で少し汚した同級生が、はあはあと息を切らして手を膝について肩を上下させている。だから、顔は見えずに短く刈った茶髪が動いているのが見えているだけだあり、彼がどんな表情をしているのかは分からない。
 でも、何で?あんたがどうしてここにいるのよ。面倒だったから適当に仕事をやりそうな私に押し付けてサボったんでしょう。

「はぁ……は、悪ぃ……。校庭から東福寺が一人で日誌書いてるのが見えて……ふぅ」

 ウソ。じゃあ、度忘れしてたってこと?馬鹿みたいね、上総俊。

「今さら……今、来たって、もう終わったけど」
「だと思った。悪かったな」

 この人、ほんっとよく分からないなぁ。

Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.5 )
日時: 2013/08/17 21:27
名前: 明衣 ◆ZVbBSoYxm. (ID: cm34dabg)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7499

更新が夏期講習のせいで出来ずにいる(ということにしておく)作者でございます。
少ないレス数でもご覧になってくださり、誠に感謝しております。
更新スピードがとてつもなく遅いですが、これからも宜しくお願いします。


リク依頼・相談掲示板にある黒雪(=華牒Q黒来)様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に依頼致しました。
この度、とても素晴らしい宣伝文を作っていただけて嬉しいので、載せさせてもらいます。
また、URLからとべるので是非目の保養に行ってくださいませ。






いつ、死を覚悟したのだろう。
いつまで、覚えていてくれるのだろう。
——別れが、悲しくないはずはないよ。

私の視界は、事故で半分になった。
病室まで見舞いに来てくれた『友達』は1人だけ。
でも、その『友達』は生まれたときから、死と隣り合わせの道を歩いている。
理不尽な世の中だよね。

それでも、これが運命だと言うのなら。
私は——あの子がこの世で暮らす間は、あの子のためにしか生きない。
絶対に。

Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.6 )
日時: 2013/11/29 14:37
名前: 明衣 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

 人間にはかなり意外なところもあるものだ。
 まあ、それはさておき私は早く家に帰りたいんですけどね、この微妙な空気がそれを全力で阻止している気がしてなりません。

「東福寺ってさ、何であいつらと一緒にいるの?」

 いきなりコイツは何を言い出すんだ。いや、あいつらっていうのはのぞみちゃんとかのことでしょ?そのくらいは分かる。分かるけれど、何故、上総がそれを私に訊いてくるのかが理解できない。しかし、関係ないでしょ、って言ったらどんな反応するのかは若干気になった。

「答えたくないなら良いけど」

 空気はよめる時とよめない時があるわけ。

「一緒にいて、楽しそうじゃないよな」

 とても心外——ではなく意外。私が本気で心外と思うことなど一生で何度あるのか数えてみたいくらいだ。だがだが、上総の観察力には驚き。案外、意外性を秘めているのかもしれない。
 それはまあ、楽しくないけれどね、省かれると色々と大変じゃないですか。

「で、私に何を言いたいのか教えてくれる?」

「別に。強いて言えばだけど、人生、楽しんだ者が勝つんだって」

 私や上総は何歳だっけ、って、小五ですよね。十歳十一歳レベルの会話の内容じゃないでしょ。何?人生論とか哲学とかそういうスケールの大きな話みたいな。楽しんだ者勝ちって……超一般論。普通。面白味が零パーセント。
 でも、私に何を言いたかったのかは分かったから良いか。

「今度からは、言いたいことを要約して言ってね」

「何文字以内で?」

 何文字以内って。国語の授業じゃないんだから。そうねぇ、じゃあ。

「十文字以内かな」

「少ねぇよ!」

 と、反発されたので、三十文字以内に変更して上総と別れた。
 久々に清々しい気がするのは、多分気のせい。本当は違っていてもそう思うことにした。人に迷惑のかけないんだから、自分に嘘をつくくらい良い。と、いうのが小学五年生、東福寺あかねの持論だから。


 昨日、ああ言われから考えてるわけではないけど、のぞみちゃんは人生を思いっきり自由に楽しんでいると予想されるから、私はあの人に負けてるってことになるのかな。それはちょっとしゃくにさわるんだよなぁ。

「あ、あの」

 変なことに悩みながら通学路を歩いていると、背負った赤いランドセルの後ろからおどおどとした声がした。もしや、と思う。私の予想するその人のイメージ声とたった今聞こえてきた声がほぼ一致した。というか、クラスメイトなのに声を聞いたことが無いってどうなんだろう。

「何?」

「え……」

 目を合わせると、その子は目をそらして何を言えば良いのかを考えている。

 そう、その子——片瀬日和。

 初の会話のはずなのに、それはとても地味で、どうでもいい感じだった。

「俊くんが」

 しばらく俯いて悶々としていると、ふいに覚悟を決めたかのように顔をあげて言った。に、しても、シュンクンとは誰?

Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.7 )
日時: 2013/12/05 13:55
名前: 明衣 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

 シュンクンとはどういう字を書くのか。俊がやっぱり王道だとは思うのだけど、駿、瞬、そう言えば最近は旬とか言う名前もある。よし、色々と考えていると切りがないから『俊君』という名前に脳内変換させてもらうね、どこかの俊君。
 で、その俊君がどうしてここで出てくるの?私にはそんな知り合い何ていないけど。

「話しかけたら良いことあるかもしれないよ、って」

「……ふうん」

 私はいつからラッキーアイテムになったんだっけねぇ。

「あのさ、俊君って言うのは誰なの?」

「えっと、それは……どう言うこと?」

 逆に質問を返された?……いやいやいや、私はごくごく普通のことを訊いたよ。老若男女関係なく答えられることですよね。話に出てきた人が誰か分からないと質問されたら、どこの誰だと答えてくれるのがセオリーってものでしょ。
 呆然とする私の姿が片瀬さんから見てかなり可笑しかったらしい。柔らかそうな桃色に染めた頬を少しくずして微笑む。

「東福寺さんって面白いんだね」

 えー、片瀬さんには負けるよーって本当に言いたいけど我慢しておこうか。

「俊君の名字は何なのって訊いたんだけど……」

「あぁ! 俊くんって上総俊だよ〜」

 上総ってそんな可愛い名前なんだ。
 え、それよか、片瀬さんって上総と仲が良いんだ。すごい意外な関係が発覚したよ。片瀬さんっていつもしゃべらないし、要領が悪そうで、テストの時は窓の外を見ているような人だと思ってた。

「あかねちゃん?何してんの」

 ふいに、頭の芯まで響いてくるような声が聞こえた。さすがにコイツは覚えているね。のぞみちゃんにリンちゃんって呼ばれている、気持ち悪いくらい好かれていてる、いつもベッタリ酒井凛。これが彼女について知っていることかな。

「あれ……片瀬、さん?」

 明らかに不信に思っている。なぜなら、甲斐のぞみの率いる女子グループでは片瀬日和と仲良くすることは禁じられているから。可笑しな可笑しなクラスの暗黙ルールとでも言ったら良いだろうか。
 さてはて、どうしようか。


Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.8 )
日時: 2013/12/08 22:17
名前: 明衣 ◆ZVbBSoYxm. (ID: cm34dabg)

 私としては、すぐさまこの場から逃げるようにして学校へと立ち去りたい。
 だけど、ここで色々と面倒事を片付けていかないと、スパイ凛から天下ののぞみ様に報告が上がってしまう。だがしかーし、ここでリンちゃんに「何でもないよ、行こう」と言ってしまえば片瀬さんの反応が目に見えている。どうでも良いけどさ、上総に絶対片瀬さんをふった理由を訊かれちゃうんだよな。

「あ、あれ?!あかねちゃん、片瀬さんと仲良くしてるの?」

 おお。最初っから飛ばして攻撃開始ですリンちゃん。

「ううん。今、話しかけられただけだよ」

 必死の防御をするが、片瀬さんの目線が気になる東福寺。全く調子狂うよ。
 大体、何で私はこんなところでこんなことをしているの?理解出来ない。ああそうだ。全ては上総とか言うあの馬鹿のせいだ。そうだ、そういうことにしておこうじゃないか。

「そうなんだー。そうなの?片瀬さん」

 What's?
 …………いやぁ、可笑しいでしょ。どーう考えても可笑しすぎる。いやだってね、今、この人は自分で「そうなんだー」って馬鹿っぽく言ってたじゃないですか。それなのに何で片瀬日和に確認するんですかね。納得してないのに「そうなんだー」とか言ってたら真の馬鹿。
 謎だ。私の頭に脳内人物辞書があったら酒井凛という人の項目には『謎』と間違いなく登録すると思う。

「えっと……?」

 うん、良い。片瀬さん、そのまま天然キャラでボーッとした感じを突き通して下さい。

「……」

 目力で言いたいことって伝えられないのだろうか。

「い、今、東福寺さんの言った通り、です」

「そうなのー?」

「うん、ほら、片瀬さんもそう言ってるじゃん。凛ちゃん、もう学校行こうよ。遅れちゃうよ」

 何とか頷いてくれた凛ちゃん。一件落着というかなんと言うか、ホッとした気分だ。

Re: 最初で最期の最高な友だちへ ( No.9 )
日時: 2013/12/14 12:10
名前: 明衣 ◆ZVbBSoYxm. (ID: cm34dabg)

III.


 ——もしも、ひよりより先に私が消えてしまっていたら——そんなくだらないことを昔、考えたっけ。今ははっきりと答えが出る。そんなことは絶対にあり得ない。そうだったら良いとも思わないし、この思いが薄情だなんてそんな風にも全く考えていない。私の方が先に日和から遠ざかったとしたら、一番に誰が悲しむ?

「姉貴、だろ」

 どーでも良いように目を細めて、弟は言った。

「正解」

 ベランダの椅子に二人して腰掛けながら暖かい紅茶を飲む冬の日。
 きっと、誰もが驚いて私は周りからの冷たい目線浴びせられるだろう、答え。でも、誰よりもずっと私達を見ていた我が弟、たくになら分かるであろう、答え。
 お医者様が言う通りに日和が成人する前に『死ぬ』のだとしたら、彼女は次の桜を見れるのかは疑問だ。だから、おそらくカウントダウンは始まっている。このまま時が経てば、一番悲しむのは日和のお母さんで、私は二番目だと思う。だけど、私が先にもし姿を消すようなことがあれば、一番悲しいのは私。その次に日和が悲しんでくれる自信はあるけど、東福寺あかねが死んでしまって一番悔しいのはやっぱり東福寺あかねなのだ。

「何でって聞かないの」

「分かんなかったら、フツー当たらねーよ」

 確かにそうだね。うん、素晴らしいよ、君。
 日和が先に逝ってしまったら、お母さんがもっと私以上に悔やんでくれる。でも、私が先に逝ってしまったら。

——日和と別れてしまう現実に耐えられない