複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.10 )
- 日時: 2013/07/30 16:06
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)
9.
「……失礼、『あなたたち』はどちら様でしょうか?」
ハウリーの住処の外には、入り口を囲んで半円状に獣人の群れができていた。そのうちの1人が、止まれと言って僕に長槍を突きつけていたのだ。その男は僕の質問には答えず、ただ静かに槍を突きつけていた。
身動きが取れない。下手に動けば一突きされて死んでしまうだろう。
「ちょ、リーダー!?ライトに何するんだよっ!?」
後ろから、ハウリーが慌てて出てきて長槍の男に向かって言った。
なるほど、ここは獣人の集落だったか。そしてこの人はその族長、と。
リーダーは長槍をどかさず、ハウリーに対してこう答えた。
「お前は下がっていろ、ハウリー。このガキは捕らえる」
「なんでだよっ!ライトは無害だ、ウチらの集落を荒らしにきたような奴じゃない!」
「『ライト』……?名を名乗ったのか。俺たちの仲間にもう取り入っているとはな。まったく油断ならん」
最後のほうは僕を冷たい目で見ながら言った。
無駄だと思うけれど、いちおう弁解。
「僕は普通に自己紹介を述べただけで、『取り入った』つもりはありませんし、とくに何か企んでいるわけでもないのですけれど」
「ハッ、よく言うな。同じセリフを俺は過去に17回は聞いた。その17人全員、どうなったと思う?」
リーダーは犬歯をむき出しにして、あざ笑った。
ハウリーが青い狼ならば、こちらのリーダーは黒いハイエナといったところか。
リーダーは後ろに半円状に控える、部族の獣人たちにあごをしゃくり、
「捕らえろ」
一言だけ命令した。
瞬間、ワッ、といっせいに皆動き出す。
僕はとくに抵抗はせず、おとなしく両腕を縛られた。
まだ、この場ですぐに殺されることはないらしい。さすがにこれだけの数を、それも獣人を相手取るとなると僕でも倒せるか自信がない。
「ちょっと、待てってば!おいっ!」
それでもハウリーは必死に抵抗してくれた。
助けるといって先走ったりと、ドジな部分もあったけれど、……いい人だ。
だからこそ。
「ハウリー、僕は大丈夫ですから。あなたはあなたの族の掟に従ってください」
「なっ、でもライトは……っ!」
リーダーの目つきが険しくなってきている。このままでは彼女も反逆罪などで罪をかぶってしまうだろう。そんな迷惑は、僕はかけたくない。
「ほら、歩けガキ!」
縄を持っている獣人にせかされて、僕は歩かされた。牢獄のようなところに行くのだろう。
最後に、悔しそうにうつむくハウリーと、どこまでも冷たい目でこちらを睨み付けるリーダーの姿が獣人たちの合間から見えた。