複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.100 )
- 日時: 2013/08/18 16:38
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)
15.
翌朝。僕が目覚めてベッドから起きると、ちょうど隣でアリスがボフッ、とベッドに寝るところだった。
「生活リズムが崩壊しますよ」
「えーだってさっき秘薬が完成したばっかなのよー?ねむぅ」
そういって、ベッドに顔をうずめたまま指で机のほうを指した。
ちなみに僕たちが宿泊しているこの部屋は2人部屋で、2つのベッドの間と通路スペースの2か所が布で仕切れるようになっている。
その通路の、入口と反対方向に備え付けの机が設置してあるのだ。
その机の上には、小さなビンが置いてあった。近づいてみる。
「……予想以上に少ないものですね」
ビンは、僕の手の小指より小さく思えた。さらにその小さいビンの、半分ほどしか薬は入っていない。
まるで蜂蜜のような金色の美しい液体だった。光に透かしてみると、時折表面が虹色に光る。
「だってそれが伝説の秘薬だものー。ちなみにほんの1滴でも効果半端ないからね〜、間違っても飲むんじゃないわよ」
「惚れ薬を自分から進んで飲むヒトがいたらぜひお目にかかりたいです」
それ以上は特に興味もなかったので、僕は秘薬のことはいったん置いておいた。
「アリス、お聞きしたいことがあるのですが」
「なにー」
「『革命』とは、そんなに必要なことなのでしょうか?」
特にこの国に置いては、と僕は付け足した。
アリスはしばらく無言でいたが、急にガバッ、と起き上った。
「アリス?」
「わっすれてた、あんたの『革命』で思い出した。今日、作戦実行日だわ」
「え」
僕は聞き返した。
「どういう……意味ですか?」
「だーかーらー、今日、ゼルフが立てた作戦が実行されるの。まぁまだ『潜入調査』で王城の情報を集めるだけみたいだけど、今日の調査の結果次第でもうすぐ戦闘を仕掛けるって」
アリスは手串で髪をとかして、何かの魔法で身だしなみを整えながらざっくり過ぎる説明をした。
「そんな、いきなり……聞いていませんよ?」
「ライトは聞いてないわよー、あたしも昨日の夜聞いただけだもの。ゼルフがついでだからって教えてくれたのよ」
『ついで』でそんな重要情報を伝えるのですか……。
「ま、実行員は別のヒトだしー、あたしは今回は関係ないんだけど、これの結果によって戦になるわけだから、あたしも全くの無関係ってわけでもないのよ。なんといっても主戦力だし」
「まぁ、そうですね。……それで、ではなぜあなたは今から出かける支度をなさっているのですか?」
するとアリスは、ニッコリ笑って答えた。
「見学♪」
-*-*-*-
「ハーイというわけでやってまいりました、ディオロラ城門前で〜っす!♪」
いえーいぱちぱち、と口で拍手を言ってセラフィタは一人盛り上がっていた。
「何がそんなに楽しいんだか……やっていてくだらないと思えてこないのか?」
そんな彼女にフォルスは氷より冷たい氷点下の声で言った。
「えーだって潜入調査だよぉー?気分盛り上げていこうよ、ほらたーのしいよー♪」
「ライト、いったんこいつ黙らせてくれないか?」
「僕に言われましても」
僕はそう返事をしつつ、とりあえずこう思った。
……今回の潜入調査は、僕もアリスも関係なかったのでは?
僕とフォルス、セラフィタは、現在豪華絢爛に装飾された馬車——という幻影で武装した、普通の一般馬車に乗って王城の門をくぐろうとしていた。
時は数十分前にさかのぼる。
『見学』と称してアリスと共に(ほぼ無理やり引っ張られる形で)僕も集合地らしい城門前に行ったのだが……。
ゼルフが調査に派遣したのは、やはりというかフォルスとセラフィタだった。
さらに数人ほど、革命団の仲間らしき人間たちや、すでに王城の内部に潜入して手引きの役をしている者もいた。
しかしその人数で、一人だけ事情があって来れなくなった者がいたらしいのだ。
その人物の役割は、フォルスの幻影術をさらに見破られないようにするための『フォロー』と、
昨日革命団に入ったばかりのセラフィタを監視する役だったらしいのだが……。
そこまで聞いて、アリスはにっこり笑って(この時点でかなり嫌な予感がした)、こう言った。
「あら、それならあたしの召え魔を使えばいいわよ♪」
……かくして僕は今、フォルスとセラフィタと共に王城に無法侵入をしようとしているところだ。
ちなみに見つかったら死刑は確定である。
だがまぁ、今のところこの面子で死刑を本気で危惧している様子は微塵もなさそうだった。それはそれで危険意識が薄いという点で危ないのだが……。
「見つかったらオ・ワ・リ、ってなんかスリルあっていいよねぇ〜♪」
「いっそのことお前だけ捕まればいいんじゃないのか?ま、ある意味嘘でもないなこれは」
「フォルス、さすがにひどいですよ、扱いが」
「あっはは♪」
フォルスはセラフィタが同行しているのでかなり機嫌が悪そうだ。
それもそうだろう、彼はもとから他人とのなれ合いがあまり好きではない上に、セラフィタのようにやや幼さの残る『明るさ』をよく嫌うのだ。
実を言えば、アリスにも少し当たりようがきつかったりする。
閑話休題。
馬車はいよいよ王城の門を通り過ぎようとしていた。
途中、門の管理を行う兵が止めかけたが、馬車の窓からフォルスが顔をのぞかせて何か一言言っただけで、兵は敬礼をして何事もなかったかのように馬車を通らせた。
「幻影術って便利だねー!ねね、今度セラにも教えてよっ」
「静かにしろ、と言ってるだろうが。お前だけ不法侵入者だっつって本気で城の兵に突き出すぞ」
僕は、なんとなくこの先が不安になってため息をつくのだった。