複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.11 )
- 日時: 2013/07/30 17:26
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)
10.
ここで大人しくしていろ、と放り込まれたのは、井戸のようなところだった。
太い根がむき出しになっている、大木の真下に穴が掘ってあるのだ。
深さは人間の大人4人分ほど。かなり深い。
地面を掘ったものなら、なにか取っ掛かりでもあるかと思ったが、まるで加工されたかのように土の壁は凹凸がなかった。埋まっていた石や岩は丁寧に取り除いたのだろう。
——獲物がよじ登って逃げないように。
ちょうど根を張った大木が、ふたの役割もしている。昼間でもかなり暗いほどだ。
そして、ここに来て僕が最も驚いたことは、
「あーら奇遇ねぇ〜。主と召え魔はずっと一緒にいると似るっていうのはホントだったのね♪」
……なぜあなたがここにいるのですか、アリス。
僕はこの人と旅をして、散々振り回されたので今では『驚く』といったことが滅多になくなった(慣れである)。
それでも未だに、この人に関することだけは驚かされることばかりだ。
世界中の人々から二つ名として謳われている紅玉の瞳は、捕虜というこの場においても笑う三日月形をしていた。
「とりあえず、あなたの経緯を説明していただきたいのですが」
「まあいろいろあったのよ〜。ちょーっと素材集めをしていたら、なんか獣人に付け狙われちゃってー、レディの頭に向かって吹き矢やってきたのよっ!信じられないでしょー?この美貌に傷がついたらどうしてくれるつもr」
「わかりましたから端的に説明をお願いします」
割愛。
まとめると、アリスの経緯はこうだった。
1 秘薬の素材を集めていると、獣人に狙われた。
2 攻撃は避けたので負傷はなし。しかし腹が立ったので魔術でその獣人をコテンパンにしてしまった(ご愁傷様だ)。
3 その獣人の仲間が逃げ出したので、追いかけるとこの集落についた。
4 集落を見ると、学者気質の血が騒いでその獣人たちの暮らしや生態に興味をもった。
5 踏み込んでいくと、完全に敵に思われて捕まってしまった。
——こんな感じだ。
そして召え魔として僕から言わせてもらうとこうだ。
「天性の馬鹿ですかあなたは」
「なんですってー?」
笑ったまま紅玉の瞳に殺気が宿った。
しかし正直に言わせてもらうと、僕の目にも殺気が宿っているはずだ。
「『腹が立った』程度で何も仕返しすることはないでしょう?ご自身の魔術の威力をちゃんとわきまえてください。獣人たちから敵とみなされたのも無理はありませんよ」
「あらライト君は『目には目を』という格言を知らないのかしらー?あたしは『狩り』で命狙われたのよ、なら相手を半殺しにしても文句はないd」
「『無駄な殺生はやめなさい』という教えを知らないのですかあなたは?それにその後、どうして仲間の獣人の後をついていったのですか。まじめに仕事してくださいあなたが言い出したのでsy」
「あたしはいつだってまじめよーだから学者気質がうずいたのよっ!気になるでしょ、秘境で暮らす民族なんt」
「残念ながら僕は学者ではないのでその理論は理解不能です」
以下、『相手の語尾を言わせずにマシンガントーク』という不毛な戦いを僕らは数分ほど続けた。
「はぁ……。さて」
「ふぅ……。じゃ」
穴の中の酸素が不足してしまうまえに、なんとか僕とアリスは同時に休戦を認めた。
……けして『主と召え魔は似る』という謎の法則に則ったわけではない。
「これからどういたしますか?」
「そーねぇ……。やっぱり魔法でドカンと」
「やめてください」
「でしょ?あんたが反対するからあたしも出るに出れないのよー」
普通、召え魔が反対しようが主はそれをねじ伏せて断行できる権利があるのだが、アリスはこういう状況ではその権利をあまり使わない。
こういうところが『変わり者』なのだ、彼女は。
しかし困った。実際、僕はアリスに『魔法でドカンと』やってもらってまで脱出はしたくない。
そんなことをすれば、ハウリーの集落が滅茶苦茶になってしまう。
「そもそも、捕られそうになった時点でなぜ逃げなかったのですか?あなたほどの武力があれば赤子の手をひねるも同然でしょう」
「それはライトにも言えることじゃなーい?あと『武力』って言うな、あたしはかよわい学者肌の美女魔導師よ」
セリフの後半部分はさておき、アリスもどうやら僕と同じ理由で捕まったようだった。
すなわち、
「『後でどーにかなる』と思ったもんで♪」
「……そうですか」
しかし、これでは困った事態に変わりはない。
なんとか、穏便に脱出する方法はないかと思案しているところだった。
「…ト……ライトっ」
まるで誰かにバレないように小声で、それでも必死に僕を呼ぶ声が聞こえた。
上を見上げる。
「ハウリー?」
「そう、ウチ!大丈夫?今助けるからっ」
アリスはニコー、と笑っていった。
「あら、救世主?ガールフレンドってつくっておくものなのね。というわけでライト、あの子とはいつどこでどういう関係になったのか説明s」
閑話休題。