複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.116 )
- 日時: 2013/08/21 14:00
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
18.
気のせいか、大臣はうっすら額に汗をかいたような気がした。
「……その質問は、どのような意味を含むのですか」
「そのままさ」
『老女』は答える。
「国王が本当に、5年前即位した『アルフィア王』本人なのか、って聞いてるんだよ、老人に何回も同じこと言わせるんじゃないよ!」
「……当たり前ではありませんか、宮廷魔導師殿。そもそも、国王が別の人間でしたら、国の大問題です」
質問は以上ですか、と大臣は言った。すぐにでもこの話題を終わらせたそうな様子が目に見えた。
「待ちな、まだあるよ」
「わたくしも忙しい身なのですが」
「知ったことじゃないね、いいから聞きな」
大臣はそれでも、振り切って部屋から出ようとしたのだが……。
その前に、フォルスはわずかに目を細めて、念を送るように大臣を見据えた。
とたん、大臣は金縛りにあったように動かなくなった。
「……わかりました、では次の質問で最後にしてください」
「わかりゃいいんだよ」
何事もなかったように『老女』は続けた。
「さっきの質問の答えがもし嘘だったら、あんたは国に対してどう償う?」
どんな質問がくるのか、と身構えていた大臣は拍子抜けしたようだった。直後、あきれと怒りを含んだ声で、
「ですから、国王はまぎれもなく本物の『アルフィア王』ですと言ったでしょう!いい加減、わたくしの貴重な時間を奪わないでくれますか?」
「……ふん、まぁいい」
『老女』はそれでやっと偽の報告会を切り上げた。
-*-*-*-
そして、僕たちは再び馬車の中。
あの悪趣味な仮面を外しながら、僕はフォルスに尋ねた。
「あの質問は、何か意味があるのですか?」
「さぁ?全部ゼルフからの指示だったしな」
セラフィタはフードをがばっ、と取り外しくつろいでいた。
「あー暑苦しかった〜。ゼルフの質問、長いんだよねぇ、途中忘れるかと思った♪」
すっきりした笑顔でそんなことを言う。
……もしその指示内容を忘れていたら、その場で『終わり』だったのだが。
と、そんな風に話していると、急に馬車の外が騒がしくなった。
「……なんだ?」
フォルスが怪訝そうに言う。馬車の前を城の兵士が何人か通り過ぎたので、僕は急いで仮面を付けてその兵士に窓越しに尋ねた。
「おい、何があった?もうすぐ主様の馬車を出すんじゃないのか?」
咄嗟の演技だったが、兵士は僕を宮廷魔導師の弟子だとちゃんと騙されてくれたようで、律儀に敬礼をしながら答えた。
「はい、それが申し訳ありませんが城門で騒ぎが起こっているのであります!何者かが、不審な爆薬を仕掛けたようで……失礼、わたくしも急ぎます!」
そう言ってあわただしく兵士は駆けて行った。
僕は窓から離れて仮面を外した。今の会話は、2人にも聞こえていたはずだ。
……そして、僕とフォルスが言うのは同時だった。
「セラフィタさん」「おいガキ」
「ぷはっ!あははは、やっぱバレた〜?」
心底楽しそうにセラフィタはおなかを抱えて笑った。
「笑いごとではないのですが」
「だってセラは天才だからさ〜、だーれも気づかないうちに罠仕掛けたんだ♪今の兵士見た!?無様!たっのし!」
「いい加減にしろよお前……」
フォルスはチッ、と舌打ちした。
僕はフォルスに尋ねた。
「どうしますか、しばらくは出れなそうですよ」
「内部にこっちの手引きをする革命団の一部がいるはずだ、そいつらを探そう。顔なら俺が覚えている」
そうして、僕らは馬車を出た。
城門では、火薬の被害で少々火事騒ぎになっているらしく、消火活動が野次馬の中心で行われていた。
——その後、フォルスが見つけた王城内部の革命員の案内で、何とか城の外へ脱出。
ちなみに、乗り捨てた馬車の中には宮廷魔導師を模した書置き(魔術で帰るから馬車は処分しておくように云々)を残しておいた。
これで宮廷魔導師一味が突然いなくなったことは、そう不審に思われないだろう。おそらく。
僕やセラフィタは元の服装に着替え、フォルスは幻影術を解除して外に出た。城門がまだ近かったため、途中で兵士の何人かとすれ違ったが、誰も僕たちに気づいた様子はなかった。
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.117 )
- 日時: 2013/08/21 23:52
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
18,5. ※若干グロ注意!
-*ゼルフside*-
ぐしゃあ。
目の前の人間は、白目をむいて後ろに倒れた。
頭部は大破し、倒れた途端むき出しの中身がバシャッ、とぶちまけられる。
こぼれた中身の、とくに脳は原型を留めず崩れてスープになっていた。
「生かしておけないんだよ、お前みたいな人間は」
ボソっと俺は呟いた。
それから、ゆっくりと倒れた人間の向こう側を見る。
「……ひっ」
腰を抜かしてへたり込んだ、もう一人の人間がこえにならない悲鳴を喉から絞り出し、必死に後ずさろうとしていた。
俺はそいつに一歩近づく。
するとその男は、びくっとなった後、急に態勢を変えた。
土下座のような格好をし、
「こここ、殺さないでくれ!頼むから!お、おれはそいつに頼まれただけなんだ、そうだそいつが主犯なんだ!だからっ、その殺すのだけは……」
必死で泣きながら命乞いをしてきた。
——無様だ。
これ以上ないくらい醜い。
目の前で、つい先ほどまで仲良く仲間面していた『同胞』が死んだっていうのに、こいつは自分の分の罪を擦り付けるだけじゃなく、その上助かろうとしている。
「……だから嫌いなんだよ、人間は」
「ひっ!?」
俺は何の躊躇も持たず、その男に右手のひらを突き出した。
「お前の脳も、破壊してやろうか」
「う、うあああああああやめてくれえええええ、な、なんでもす……」
ぐしゃ。
どさり、と目の前の『人間だったらしいモノ』は倒れた。
高そうな毛皮が敷かれた床に、さっきのヤツと同じ物をぶちまける。
血やら、脳の破片やら何かの液体やらが2人分、混ざった。
時間差で腐臭がだんだんきつくなってくる。
俺はその臭いを避けるように外套の襟をたてて、さっさとこの居るだけで虫唾が走るような部屋を出た。
……同種族をけり落として掴んだ大金で、吐き気がするくらい豪華絢爛に着飾った部屋なんて、本当に虫唾が走る。
部屋主の脳漿でも塗りたくったほうがよっぽどお似合いだろう。
しばらく廊下を歩いていて、俺ははたと思い出した。
「……そういえば、もうすぐか?」
外套の懐から、懐中時計を取り出して時刻を見る。
……ふむ、もうすぐだな。急いでこの城からも出なければ。
——もうすぐ、宮廷魔導師を装った革命団の3人が大臣と接触するために、ここへやってくる。
その指示をあたえた張本人がここにいては、ヘタに信用を失いかねない。
俺は帽子をかぶりなおして、真っ赤な絨毯が敷き詰められた、ディオロラ王城の廊下を歩いた。