複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.127 )
- 日時: 2013/08/26 17:06
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
22.
目の前に現れたのは、フォルスだった。
「フォルス……なぜあなたもここに?」
「そこ、俺の家なんだけど」
と言ってフォルスが指したのは、たった今ゼルフが少し屋根を破壊した建物だった。
なるほど、僕とヴィルは逃亡しているうちに、いつの間にかフォルスの家の付近に来ていたらしい。ここは、あの店の裏側のようだった。
「ったく、あいつにはあとで弁償してもらわねーとだな」
「……すみません、とばっちりで」
「いいよ別に。嘘だから」
「…………」
ヴィルは、戸惑ったようにフォルスを見ている。
「そうでした。フォルス、すみませんが僕たちは今、急いでいて……」
「知ってる。ゼルフに殺されかけてるんだろ、そのガキが」
一部始終を見られていたらしい。
だとすると、危険かもしれない。フォルスも、革命団の一員なのだ。
僕がそう思っていると、フォルスは無表情な顔に少しあきれの色をのぞかせた。
「ライト、お前さ。この俺が、一朝一夕で契約した馬鹿らしい革命の見方をして、唯一の貴重な友人を見捨てると思うか?」
「それは……」
と、そこにゼルフが僕たちを見つけたようだった。
「なんだ、幻影使いもいるのか」
「よぉ。早速だがゼルフ、俺革命団抜けるから」
至極あっさりとした口調でフォルスはそう言った。
「……嘘ではなさそうだな?」
「まあな。と、いうわけで——」
フォルスは、そこで言葉を切った。瞳が藍色に輝く。
ゼルフはその様子を見て、不審そうに眉をひそめた。
その間、フォルスは小声で僕に言った。
「早く逃げろよ。助けるんだろ、その『国王』だかってガキを」
「フォルス……。ありがとうございます」
ヴィルは、相変わらず先ほどから大人しかった。このまま逃亡を続けることに迷っているようにも見える。
だがとにかく今は逃亡が優先なので、僕は彼を引っ張って再び逃げた。
「全く、幻影使いも無茶をするな。俺は破壊神だ。お前の幻影など見破ることもたやすいのだぞ?」
「そうだな。でも、ちょっとした時間稼ぎくらいにはなるだろ?まぁ、俺の家ぶっ壊してくれたんだから、暇つぶしの余興にくらい付き合えって」
対峙したゼルフとフォルスがそう話していたのが聞こえた。
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それにしても、ゼルフは本当に最初から『革命』に協力する気はなかったということなのか。
もしかしたら、革命を人間(あの猟銃の頭領)が立ち上げたのに乗じて、国中の人間を破壊——殺してしまうつもりだったのかもしれない。
革命の頭領の男は、ヴィルを人質にして、王城側に何かの交渉を持ちかけようとしていたが……それは、本当に国民にとって悪い何かを改善するためのモノだったのだろうか?
おそらくは、あの男はただ単に自分が国の政治を乗っ取りたかっただけなのだろう。そんな欲望がありありと見えた。
僕にはこの国の末路がどうなろうが、直接的には関係ない。
——それでも。
僕は、平和だったある日突然それを壊された、故郷での出来事を思い出した。
「……あんな思いをするのは、僕らのような限られた種族で十分なはずです」
思わずボソッ、と僕は呟いた。気づいたヴィルが不審そうに見上げる。
僕は「なんでもないですよ、ただの独り言です」と言った後、ヴィルにこう言った。
「ヴィルさん。あなたはやはり必要な存在です。この国には、たとえ『人形』だとしても、あなたのような国王が必要なのですよ。なぜなら、人形ではなく『欲深い人間』がもし国王になったら、国が滅茶苦茶になってしまうからです」
すると、ようやくヴィルは口を開いた。
「それでも、ボクは偽りばかりで全国民を欺いてきたのだぞ……?」
「『偽り』で罪悪感を感じているのなら、『真実』に変えてしまえばよろしいのですよ」
「え?」
僕は続ける。
「ヴィルさんはまだ、これからたくさんのことを学びます。8歳は短命な人間の中でも、まだ全然若い方ですから。そうしていろいろなことを学んで、あなたこそが本物の国王になればいいのではないのですか?お亡くなりになられた義兄の、残された使命がまさにそれだと僕は思うのですが」
ヴィルは、ハッとした表情になった。
……これで、死んでしまうことは思いとどまってくれただろうか。