複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.130 )
日時: 2013/08/28 16:12
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)

23.

「なーんだ、ヴィル君自身の問題は大体ライトが解決しちゃった感じ?」

そう言ってひょい、と現れたのは、

「アリス?」
「ハーイ♪お買い物から帰還ですよ、っと」

アリスは片手に持った紙袋をちょっと持ち上げて見せた。
僕が何か言う前に、アリスは勝手にヴィルを保護して、

「事情は全部わかってるわ、だからここまで急いできたのよー。セラちゃんにも手伝ってもらってねー、フォルス君にもあんたを助けるようにこれから頼みにいこうとしてたんだけど、必要はなかったみたいね♪」

持つべきものはやっぱり友達ね、とアリスはウインクした。
なぜだかわからないが、僕はこういうときだけはやっぱりこのヒトが『すごい』と思えてしまう。なぜだろう、口調や態度が軽率っぽいのに結局僕は助けられてしまって、若干悔しい。
ま、そんなことは言ってられないか。助かったことに変わりはない。

「アリス、お前は……ボクの敵ではないのか?」

ヴィルが少し不審そうにアリスを見上げた。
それに対して、アリスはいつもの少しふざけたような口調で答えた。

「まっさかー、現国王サマにたてつくわけないじゃなーい?……と、いうのはまぁ冗談で、革命があんまり楽しくなさそうだったからよ」
「そんな軽率な理由でいいのですか」
「あんたこそ『なんとなく』だなんて、随分テキトーなこと言ってたじゃない。ま、あたしの場合は……あの革命の頭領が気に入らなかっただけなんだけど」

アリスの意味深なセリフに疑問を持ちつつ、彼女の案内で街を歩いて行く。すると、先ほどの港——僕とヴィルが、革命団に襲われたところ——に、ちょうどたどり着いた。

ただし、そこには先ほどとは一転して真逆な光景が広がっていた。

「あ、お帰りーアリス!あとライトと王サマ♪」

そう言って、座って足をブラブラさせるセラフィタ。
そのセラフィタが座っているのは……縄でぐるぐる巻きにされ、無造作に山積みにされた革命団の頂点だった。
人間が後ろ手に縄で縛られうつぶせになっているその背の上に、セラフィタが堂々と座っている。

「また随分と前衛的な光景ですね」
「あっはは♪ライトも隣座るー?見晴らしいいよここ」

と言ってセラフィタが、隣——もというつぶせになっている人間の背中をペチペチ叩くと、その人間は怯えたようにビクっ、となった。
驚きながらもヴィルが、アリスに尋ねた。

「これ、アリスが全てやったというのか……?」
「あたしも手を貸したけど〜、セラちゃんもだいぶ暴れたわよ♪」

ねー♪、と言い合うアリスとセラフィタ。
……女性を敵に回すと、いろいろな意味で恐ろしいことになると僕は学習した。

と、そこに。

「だいぶ盛り上がってるなー、こっちは」

僕たちが歩いてきた路地から、フォルスが現れた。

「フォルス、無事でしたか?」
「いや、全然無事じゃなかい。実はもう脳みそ破壊されてるんだけど幻影でごまかしているんだぜ、今」

…………。

「ま、嘘だけど。さすがにヤバそうだったから逃げてきた。もうすぐこっち来ると思うぜ、破壊神」
「そうですか」

逃げてきたことを責めるヒトは、ここにはもちろん誰もいない。
ヴィルは神妙な顔でフォルスに礼を言い、
アリスはチロ、と赤い舌でちょっと唇をなめて「前からあの破壊神とは対決してみたかったのよー♪」と危ないセリフを言い、
セラフィタはこれから始まるお祭りを待ちわびる子供の用にはしゃいでいた。

僕は次のセリフを言おうか少し迷って、結局フォルスに言った。

「迷惑かけてすみません。先ほどは助かりました」

フォルスは相変わらず無表情のままだったが、一瞬動きが止まった。
そして、少し早口で答えた。

「いや、面白いことがないと死ぬ体質の俺にとって観察対象が死んだらちょっと困るもんで」
「そうですか」

お決まりの「ま、嘘だけど」を聞き流していると、そこにセラフィタが人間の山の上から、からかうようにフォルスに言った。

「フォルスってさー、照れ屋?結構友達思いだよねー」
「死ぬくらいの幻覚で発狂させてやろうかガキ」
「こわーい♪」

そしてそこに、ついに話題の人物が登場した。

「……『役者はそろった』、て感じか」
「フフ、あなたもなんだかんだ言って『あの世界』の言い回しをよく使うじゃない♪」

ゼルフとアリスがそう会話した。

さぁ、ここで戦闘になるのだろうか——。
と、思った矢先。

「ライト、ちょっと命令するわね」
「はい?」

急にアリスは僕に、こう言ってきた。

「そこの人間の山、全員王城の牢獄に運んどいて。国家反逆罪で♪あとあと、ヴィルをお城まで護送すること。セラちゃんとフォルス君がたぶん手伝ってくれるから」
「ハーイ!セラ手伝うよーっ」
「おい、俺は一言もそんなことは……」

フォルスだけ何か言いたそうだったが、アリスは「まあまあ、大事なお友達を手伝ってあげると思って」と言いくるんだ。

それから彼女は、目の前の破壊神に向き直った。

「あたしは、ちょっとこの破壊神サンと話があるから。任せたわよ、召え魔♪」

パチ、とウインクした後、アリスはサッ、とゼルフの方へ駆けていき、
彼の腕を掴んだと思うと——

ヒュンっ、と、2人の姿は消えていた。