複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.2 )
日時: 2013/07/30 15:52
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)

2.

「グルルルゥゥ……」

最初に向かってきたのは、狂った狼『マッドウルフ』。
僕の喉笛を狙って飛びかかってきた。
一撃で仕留めるつもりだったのだろう。もちろんやすやすと思い通りにさせるはずはない。
僕は素早く右腕のみ、『変化魔法』を"解除"した。
魔獣グリフォン特有の、刃物のような鋭い爪と鉄のように固い鱗で構成された右腕を、無造作に振る。

バシィンッ!
「ギャオンっ!?」

ぐしゃあっ、とマッドウルフは森の湿った大地に叩きつけられた。
今ので首の骨は折れただろう。痛みに悶えて、目玉を落ちそうなほどひんむいている。
(一体行動不能にした。次は……)
駆除する敵の数をカウントしながら、辺りを見回す。
今のマッドウルフを一撃で倒して見せたことで、魔物の数体は怖じ気づいて逃げ出した。
追いかけはしない。『逃げ』もまたこの世界で生き延びる一手だ。

「ギエエーっ!」

次は怪鳥だ。3体ほどが一斉に襲ってきた。

同じように右腕をひと振り。2体にヒット。

もう1体は角度を変えて左から襲ってきたので、そのまま魔法は解除せず、格闘技の要領を使い片足で回し蹴り。

「グゴアァッ…!」

醜い声をあげて撃沈。
(追加3体。残るは……)
敵を確認すると、ヒトガタの植物の魔物が2体ほど、怯えたようにビクビクしていた。

「……あなたたちだけですか?」

人間の言葉が通じるかは定かではないが、僕なりの礼儀として尋ねるように『確認』した。

ピョコンっ!?

ヒトガタ植物はいっそう怯えたように三センチくらい飛び上がり、
……ちょこまかした動きで素早く逃げていった。

任務完了。
僕は再び変化魔法で右腕を少年のものに戻した。
と、そこに

ぱちぱちぱち〜

やや気の抜けるような拍手が響く。見なくてもわかる、アリスだ。

「お疲れ〜ライト。ちょっと時間かかったけどまあ上出来ねー」
「時間においてのご不満があるなら、あなたが魔術で一閃すればよろしいのでは?」
「戦ってる最中のイケメンライト君を見て目の保養をするのも時には必要よ」
「ご冗談を。アリスの美しさには到底かないませんよ。というわけで仕事してください」
「ちぇー…。わかったわよぉ」
ぷう、と子供のように頬を膨らましすねるアリス。
いちいち仕草がぶりっ子のようなのに、アリスがやると様になるから美女とは恐ろしい。
まあ召え魔として言わせてもらえば、かわいこぶっても相手が"人外"なら全く意味がないように思える。

「今すっごい失礼なこと考えてたでしょ」
「はてなんのことでしょうか?」
「すっとぼけて全くー。まいっか。用は済んだわ、引き続きあなたは上空から『探して』ちょいだい、ウルトラ毒舌敬語召え魔君」

……変なあだ名を即興でつけないでいただきたい。

とにもかくにも、僕は再び変化魔法を解除し、今度は完全なグリフォンの姿で空へ飛び立った。

——ここ、危険地帯ドリアーネの森にアリスがわざわざ訪れた理由、『あるモノ』を探して。