複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.21 )
日時: 2013/08/01 14:09
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)

14.

アリスを逃がしたことに、ルーガは舌打ちしたがすぐに思考を切り替えて、標的を僕に定めた。

「いくぞガキ」
「ガキではないんですけれどね」

獣人族特有の強靭な脚力を駆使し、ルーガは間合いを詰めた。
一足飛びで僕の目の前にまで迫る。逆手に持った短刀の銀の刃が煌めいた。

しかし、強靭な脚力なら僕も所持している。
僕はふくらはぎから下のみ変化魔法を解除、獅子の足になって後ろに飛び退いた。
相手の得物は短刀な上に、獣人族だ。最悪得物を失っても、噛みつき攻撃ができてしまう。近距離はとことんこちらに不利だった。
僕の足の変化に、ルーガは一瞥をくれただけで驚きはしなかった。

「魔獣人族か。獅子の足ということは、さしずめグリフォンかキマイラといったところか」
「なかなか知識もお持ちのようで。確かに僕はグリフォンです」

ハウリーは驚いた様子で僕を見た。
……そういえば、まだ正体がグリフォンだとは言ってなかったな。

そこで、僕はハウリーと初めて会ったときのことを思い出した。

「ハウリー」
「え、ウチ?なんだっ?」
「あなたは吹き矢が得意でしたか?」

ルーガは突然の僕とハウリーのやり取りに、不審そうに眉をひそめた。
ハウリーは戸惑いながら答える。

「まあ、ウチ他の武器はてんでダメだけど、吹き矢なら集落イチの自信があるぞ?」
「ちょうどよかった。ではルーガを狙ってください」
「え、ちょ!?」
「……よく本人の前でおしゃべりができるな?させるわけがないだろう」

そう言うや否や、ルーガは再びハウリーを狙った。
しかし僕のほうが速い。
僕はハウリーを下からすくうように抱き上げて、背中から鷲の翼をだした。
そのまま上空へ。

「えええちょっとライトっ!!??」

いつも以上に真っ赤になったハウリーが、じたばたしながら言った。

「すみません、非常に不快に思われるかもしれませんが落ちますよ」

瞬間、ピタッ、とハウリーは動きを止めた。

「あ、いやえっと別に不快とかそういうんじゃなくてな、えっと」

なにやら早口でモゴモゴと言っている。気を使わせてしまったか?
僕は全身の魔法を解除して、グリフォンの姿に完全に戻った。ハウリーは背中に乗っけた形になる。

「うわあっ、何だっ!?」
『こちらのほうが狙いを定めやすいかと。いちいち驚かせてしまったようで申し訳ありません』
「あ、あぁそっか……」

ハウリーの声のトーンが若干下がった。
自分の集落の族長をこれから吹き矢で狙うのだから気は進まないかもしれない。
だが残酷かもしれないが、僕には彼女の協力が必要だった。

『お願いしてもよろしいでしょうか?』
「……わかった。リーダー、やっぱり様子がおかしかったし、ウチはライトの味方につくよ」
『ありがとうございます』

地上では、ルーガが静かに僕らを——否、僕を睨んでいた。