複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.22 )
日時: 2013/08/01 14:42
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)

15.

「リーダー……ゴメン、悪いけどちょっと寝ててな?」

ハウリーはそう話しかけるように呟いて、吹き矢を構えた。
僕が起きたとき、彼女が行っていた作業はこの吹き矢造りだったのだ。

ヒュンッ

小さな矢が放たれる。
しかし、常人なら確実に命中しただろうその正確な狙いは、一本目は外してしまった。
ルーガは恐るべき動体視力と運動神経でハウリーの矢を見極め、バッ、と飛び退いて避けた。
そしてなんと、

ブンッ!

「あ、危ないライトっ!」
「っ、!」

短刀を投げつけてきた。
グリフォンの姿のときのデメリットはこういう時に現れる。
体が大きい分、的が広いため避けにくいのだ。
僕は片翼を器用にたたんで避けようと試みた。

しかし、短刀は命中。僕は右肩を負傷した。

『いつッ……』
「ライトっ!」

空中で僕の体は右に傾いた。

『ハウリー、今はルーガを倒してください。僕は無事です』
「わ、わかった」

右に傾いたことで飛行していた僕の高度は少し下がった。
ルーガはその間に手近な木に登り、こちらに今にも飛びかかる準備をしていた。
しかし、その隙をハウリーは逃さない。

ヒュンッ

「!!……くっ、貴様……女の分際で……」

悔しそうに、ルーガは意識を失って、木にもたれ掛かった。勝負あり、だ。

-*-*-*-

「完全に気絶していますね」

「ほんの一滴でも、体内に入れば数時間は眠らせるキノコの煮汁が仕込まれてるからなっ」

ハウリーは少し得意気に言った。
今、僕はすでに少年の姿に戻って、ハウリーと共に地面に降りている。ルーガも木から降ろして、木の幹にもたれ掛かるように寝かせていた。

「ハウリーは植物のことに詳しいのですね?」
「え?いや、べっ別にここで暮らしてれば普通のことだしっ」

真っ赤な顔の前で両手をブンブン振る。本当に謙虚だ。
ふと、思い出したようにハウリーの表情が陰った。

「ホントはさ、この吹き矢を教えてくれたのも、リーダー……ルーガなんだ。ウチ、こいつと幼馴染みなんだよな」
「そうだったのですか?」

それは意外に思えた。
背も高く、話す口調もどこか大人な雰囲気のルーガが、小柄で下手をすれば小動物にも見える(実際は狼らしいが)ハウリーと同年代とはイメージしがたかった。
しかし、確かによく見てみると、木にもたれ掛かって規則正しい寝息をするその横顔は、遠くから見たときより思った以上に幼い。

「ルーガはウチより2歳年上でさ。ちっちゃい頃から頼れる兄貴みたいなヤツだったんだ。『ハウリーの分際で』とかってよく馬鹿にされたりしたけど、ヤバイ状況のときはやっぱり助けてくれたり……」
「……ハウリー、」
「なぁ、なんで、こんな変わっちまったんだろう……?ウチのことも、『女』だからってだけで見下すようなマネもしなかったのに」

ハウリーは、本当に悲しそうに話した。

——変わってしまった族長。執拗に僕やアリスを狙う理由。
これらに、何かの繋がりでもあるのだろうか?

僕は、ハウリーにかける言葉が見つからず、ただ傍らでそれらのことを疑問に思っていた。

そう、考えていたときだった。

「……ぅ……くっ」

ルーガが苦しそうにうめきだした。

「ど、どうした!?ルー……えっとリーダー?」
「……起きてはいないようです。悪夢でも見ているのでしょうか?」

そのうち、ルーガは途切れ途切れに何かうわごとを言い始めた。

「ハウ……リー、逃げろ……俺はもう……」
「り、リーダー……?」
「!ハウリー、お静かにっ」

僕は片ひざを立てて、ルーガのうわごとがもう少し聞こえるように耳を済ませた。

「ドリアー……ネが……集落……を………俺はもう、取り込まれて……」

そこで、急にルーガはガクン、と力が抜け、横に倒れそうになった。
地べたに寝転んでしまう前に、僕は片手で受け止めて支えた。

「ちょ……ライト、今のって、」

ハウリーが、髪と同じくらい真っ青な顔で問いかけた。

「ハウリー、お気持ちは察しますが、どうか今は気を確かに」
「あ……ああ、ゴメン」

——どうやら、ルーガの人格が変わってしまった謎が解けそうだった。
……新たに厄介な問題も共に発掘されてしまったが。