複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.26 )
- 日時: 2013/08/04 10:43
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)
17.
アリスと向かい合う形で対峙していた人物、それは緑髪の女性だった。
足首まである圧倒的な長さの緑髪が特徴のその人は、手に何か、占い師が持つような水晶を持っていた。
しかし、おそらくそれはただの水晶ではないだろう。うっすらと、光を帯びていたからだ。
僕は、アリスに声をかけながら着地しようとした。
「待ちなさい、ライト」
『はい、どうかしましたか?』
珍しくアリスは、どこか真剣な表情で言った。
顔は目の前の緑髪の女性から逸らさず、振り向かないで僕に指示を与えた。
「着地はしてもいいけど、姿はそのままでいなさい。いいわね?今イケメン君になったら怒るから」
『……?わかりました』
……うすうす勘づいてきたが、まだ確証はない。
僕は指示通りに、グリフォンの姿のまま着地した。
そこまで僕らのやりとりを黙って眺めていた緑髪の女性が、口を開いた。
「なんだ、魔獣のままなの?期待していたのにぃ、『紅玉の魔女の召え魔』君♪」
「残念ながら、あんたにはあたしのかわいい召え魔を披露するわけにはいかないわね。だって養分にされちゃうもの。——ドリアーネ」
やはり、だ。
緑髪の女性は、まさしくこの森の統括主、ドリアーネだった。
『アリス、まさかこの短時間で見つけたのですか?』
「まあ、『探索魔法』を使っても一発だったけどね〜。これは偶然よ。歩いてたら鉢合わせになったの」
……なるほど、なんという強運。
「それよりライト、あの族長サンは?」
『あ、倒した……というより眠らせたのですが、それについて報告が』
僕は、これまでの経緯を手短に報告した。
僕の報告を聞くうちに、アリスの紅玉の瞳はスウッ、と細められ、目の前のドリアーネ——否、ドリアーネの持つ水晶を睨むようにして見た。
その一連の様子を見て、ドリアーネは、
「キヒヒ、へーえ、きみっばあの獣人族の族長倒しちゃったんだー?やるじゃない♪」
と言った。
まるで貴族が飼い猫にするような手つきで、水晶を優しく撫でる。
……気のせいか、水晶が震えたような気がした。
「あーあ、きみみたいな子がもっといればいいのにぃ。すっごく美味しそう……♪」
『……すみません、とんでもない悪寒がしたのですが風邪でもひいたのでしょうか』
「キヒヒ、しかも毒舌!おもしろーい!」
なんというか、底知れなく不気味な方だ。いろいろな意味で。
「おしゃべりはここまでにしたらどう、ドリアーネ?さっきあたしが提示した『交渉』の答えを聞いてないわよ?」
「紅玉の魔女は容赦がないねぇ」
相変わらずドリアーネは下品な笑い声をあげている。何がそんなに楽しいのか……。
「もし、アタシが了承しなかったらどうするつもりなんだい?」
「んーそうね。あんたの森に放火でもするわ」
アリスがサッ、と右手を突き出すと、右手の平の上に、
ボゥっ……!
と炎があがった。
この程度ならまだ序の口だろう。
本当に放火する事になったら、文字通り『炎の雨』でも降らすかもしれない。
ドリアーネは答えを口にしようとした。
……だがその前に。
『お待ちください。あなた方は、一体何の交渉をしているのか説明願います。場合によってはアリス、交渉事態やめてもらいたいと主張しますよ』
「むぅ、めんどくさいわねー」
『主であるあなたが何を企ん……失礼、何を考えているのか知る権利が僕にはあると思います』
「んな不吉なことなんて、なーんにも考えちゃいないわよー」
にっこーり、素敵な笑顔で言われた。
……その表情が一番信用ならないのだということを、自覚させた方がいいのだろうか?