複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.32 )
日時: 2013/08/04 10:48
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)

20.

「まーったく、早とちりもいいところねー。ハウリーちゃん災難ね」

アリスが言うと、獣人族たちはひたすらに恐縮した。
先頭をルーガ、次に僕とアリス、さらに後ろをぞろぞろと獣人族たちの順で僕らは大移動をしていた。

獣人族の1人がやっと話したこと曰く、なんとハウリーは反逆罪で例のあの井戸のような檻に閉じこめてしまったらしかった。
リーダー代理が、まあなんというかちょっとした馬鹿でハウリーがルーガを殺したと思ったらしい。

「えっとあのリーダー、本当にすいやせんでした……」

そのリーダー代理は、先程からとにかくルーガに謝っていた。

「だからもういいと言っているだろうが?鬱陶しい」

ルーガは振り向かずに簡潔にそれだけ答えた。

「なかなかすごいわねールーガ君。ヒトのビビらせかたを熟知してるわね」
『いえ、あれはわざとと言うより本心からそう思っているだけだと思いますが』

そうこうしていると、檻に着いた。

「ハウリー!いるか!?」

ルーガが声をかける。
そして返ってきた返事は、誰も予想もしていなかったものだった。

「キヒヒ、あなたが落としたのは金のオノか、銀のオノか……それとも、この子かしらぁ♪」
「っ、!?」

声は、檻の中からではなく、上から降ってきた。
バッ、と皆上を見上げる。
檻の巨大な木の枝に、先程逃がしたドリアーネと……

「は・な・せ〜〜!!お前に姫抱っこされても何にも嬉しくねぇよっ!!」

ジタバタと暴れるハウリーがいた。

「ハウリー!?」
「あ、ライトっ!あとリーダーとアリス」
「あたしたち完全にオマケ扱い?」
「……悪いな、幼馴染みが」
『ハウリー、無事……ではないですね。大丈夫ですか?』

僕らが思い思いの言葉をバラバラに言っていると、ドリアーネが言った。

「キヒヒ、さっきは失敗してせっかく手に入れた族長の魂を手放しちゃったからねぇ。代わりにこの子をいただいていくわねぇ♪」
「おい、ふざけるな!ハウリーを放せ!」

抗議したのはルーガだ。

「キヒヒ、い・や・だ♪」

アリスはその様子を見ながら言った。

「どうするー?さすがのあたしでも、ハウリーちゃん人質にとられちゃったら、ドリアーネにだけ攻撃なんてできないわよー?」
『そうですね……』
「キヒヒ、紅玉の魔女にも打つ手なしって感じかしらぁ♪じゃあここら辺でおいとまするわねぇ、お家でじっくり食べたいもの♪」

ドリアーネが空中に、サッ、と片手を出すと、どこからともなくシュルシュルっ!とツタが伸びてきた。
それに片手で掴まり、ドリアーネはジタバタするハウリーを押さえ込んで森に消えた。

「逃げ足だけはボルト並みね」
『すみませんよくわからないのですが』
「あら、とある異世界での言い回しよ」

……ボルト?しかも異世界ですか。
いや、今はまあいい。
ルーガは初めてこちらに向き直り、僕とアリスに言った。

「……お前らのことは覚えている、偽の魂に体を乗っ取られていたときでも、見えていた情景は夢みたいに俺にも見えていたからな」
「あら、そうなの?ちょっと仕組みが気になr」
『それでどうかいたしましたか?』

むぅ、というアリスの声が聞こえたが黙殺。

「ハウリーを助けるのを手伝ってくれないか?俺が頼めた立場ではないことは承知だが……あいつは俺の幼馴染みだ。どうしても助けたい」

ルーガは真剣な目をして頼んだ。
僕らの答えは、すでに決まっている。

『もとからそのつもりですよ』
「まあ、獣人族のリーダー直々に頼まれちゃー断れないわねー」
「……!感謝する」

ルーガは頭を下げた。

「んじゃ、そうと決まれば善も悪も急げよ、ハウリーちゃん奪還ついでに緑のボルトを軽くシメますか♪」

僕は、わずかだがドリアーネに同情した。