複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.38 )
日時: 2013/08/04 11:57
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)

24.

『美容と健康のための必然的な運動』という名の『ストレス発散』でアリスが暴れまくった数時間後(さすがにドリアーネが不憫な上にちょっと一般公開できないほどすさまじいことになったので、描写はあえてしない)。

僕は一度少年姿になり、集落の建物の縁側のようなところで座らせてもらって待機していた。
ちなみにルーガや一部の獣人族たちは、興味しんしんでアリスの戦いを観戦している。一種のお祭りのようだ。

(図らずともアリス本人が祭りを開催するような形になった、という感じか……)
「おーい、ライトっ」
「ハウリー、どうしました?観戦はしないのですか?」
「いや……ウチにはちょっと、な』

ハウリーは苦笑いでそう言った。
まあ、さすがに女の子はあまり興味を持たないだろう。
観戦に行かずに集落に残っている獣人族も、ほとんどが女性ばかりだ。

「あ、それよりっ。はい、コレ」
「……?」

ハウリーが差し出してきたのは、手のひらほどの葉に包まれた何かだった。開いてみる。

「これは……あの巨大花の」
「そう、花粉!最初、ライトがそれ取ろうとしてたのをウチが邪魔しちゃったから……えと、そのお詫びに」
「採取するのは危険だったのではないのですか?」

僕が尋ねると、ハウリーは得意げに言った。

「森でずっと暮らしていれば慣れっこだし、平気だっ!」
「どちらにせよ危険に変わりはないと思えるのですが」
「うっ」

ハウリーは子供みたいにシュン、となった。……いい加減これくらいにしよう。

「冗談ですよ。代わりに採取してきてくれて、ありがとうございます」
「!えっ、あ、いや別にたいしたことでもないしっ!ライトはウチらの集落を助けてくれたからそのお礼っていうかなんていうかえっとその」
「……あの、落ち着いてください」

どうやら彼女は極度のあがり性らしい。よく真っ赤になっては早口でしゃべるしゃべる。

「……ある意味おもしろい人ですね」
「へ?ライトなんか言った?」
「いえ、何でもありませんよ」

僕は葉ごと花粉を採取ビンに入れた。これで落とさないだろう。
と、そうしているときだった。

「ラ・イ・トぉーっ!今すぐ飛ぶ準備をしなさい!!」

アリスがそう叫ぶように命令しながら、こちらにものすごいスピードで走ってきた。

「うわ、どうしたんだアリスっ?」
「さぁ……何かあったようですが」

そう言いながら、僕は一応命令どおりにグリフォンの姿になった。
と同時にアリスは目の前まですでにきていて、僕がグリフォンの姿になるや否や背に飛び乗った。

「ほら早く飛びなさい、中央街に帰って宿とるわよっ」
『ですからどうしたんですか、そんなに急いで』

アリスは若干いらただしげに、早口で言った。

「森中のモンスターが、追ってきてるのよ!」

……だからどうしてそうなった。
と、そんな僕の疑問には、遅れて後からやってきたルーガが答えをくれた。

「レノワール、急いでやったほうがいいぞ。ドリアーネを倒したことで、モンスターがその魔女を新たな主とみなしたらしい。森から外に出ないように、必死で追いかけているようだ」

そういうことか。

『全くあなたという人は……』
「い・い・か・ら、さっさと飛びなさい馬鹿ぁっ!」
『わかりましたから暴れないでください』

確かに、すでにこの距離からでも追いかけてくるモンスターの大群が見えた。
僕は、僕の主の要望通りに飛び立った。

「ライトーっ!」

地上から声がかかる。ハウリーだ。

「また、遊びに来いよっ!ウチもルーガも、みんなも待ってるからーっ!!」
「またな、レノワール!次に会ったら手合わせでもしろ!」
『ええ、またいつか来ます。……ルーガさんとの対決は手厳しそうですね』

するとルーガは、遠目に見てもわかるほどニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

「お前は骨がありそうだ、一度戦ってみたい」
「ちょ、だからリーダー怖いって!どんだけ戦い好きなんだよっ」

そんな2人の会話が小さく聞こえ……やがて、姿も森の木で見えなくなった。

-*-*-*-

『よろしかったのですか、アリス』
「んー?何がよ?」

上空を飛びながら、僕はアリスに尋ねた。

『森の主になれたのでしょう?あれくらい珍しい植物も種類豊富な森ならば、"崇高な魔術の研究"にはうってつけの場所だと思えるのですが』

するとアリスは、フン、と鼻を鳴らした。

「いいこと、あたしは自由気ままに一生旅を続ける、放浪の天才美女魔導師『紅玉のアリス』よ!あーんなちっぽけな森の中に、こーんな大物が引っ込んでいろとでも?」

そんな不敵な様子に、僕は思わず笑ってしまった。
——やはり、この人は僕の主人だ。

「あとそれから」
『?』

アリスはさらにこう続けた。

「……召え魔は、優秀なのが1匹いれば十分よ」

こちらは小さくボソッと。

『つまり僕は優秀ということでよろしいのでしょうか?』
「あーもういちいち確認とるなぁっ!はやく中央街に行きなさいっ!」
『今向かっているところですよ』
「もっとスピードあげなさい!日が沈む前に着かないt」
『了解しました』

相も変わらず、僕らはうるさく言い合いながら、やや朱のさした大空を滑空していった。

*to be continued*