複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.5 )
- 日時: 2013/07/30 15:53
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)
5.
バサッ、と羽ばたいて僕は目的地の真上にホバリングした。
(まちがいないな)
僕が見つけたもの、それは巨大な花だった。
……もう、『巨大な花』としか言いようがない。
緑ばかりが続く森のなか、その花はいきなり咲いていた。花弁一枚が、人間の大人2人分の身長と同じ長さ。その巨大な花弁に縁取られた中央の花粉は、直径が大人3人分になる。
なぜここまで大きな花を、見つけ出すのに時間がかかったのかというと、その原因は『色』にあった。
花は、限りなく緑に近い青色をしていた。花粉においては、完全に緑だ。
一度見つければ、もう見失うことはないが、見つけるまでは森と同化していて気づかなかった。
花のすぐそばの、適当に丈夫そうな木を選んで枝に留まる。狩った鳥はとりあえず木に引っかけて置いておいた。
変化魔法で少年の姿になり、木から飛び降りて地面に着地した。グリフォンの姿だと、体が大き過ぎて着地できないほど木が密集していたのだ。
「これか。特徴がアリスから聞いたのと一致する」
人間の姿のときの癖で、独り言を言って僕は花をよじ登った。
「よっ、と」
花弁の上に立った。花弁は弾力があり、まるでトランポリンのようにバウンドする。……立ちにくい。
僕は器用にバランスをとりながら、花粉に近づいて行った。
お気づきかと思うが、この巨大な花の花粉が秘薬の材料のひとつなのだ。
事前にアリスから渡されていた、採取用の小瓶を取り出す。
「少量いただきますよ」
花に一応断りをいれて(こういう時、なぜかアリスはよく僕を「変わってる」と言う。すごく不本意だ)、花粉を採取した。
その時だった。
ヒュンッ
「っ、!?」
咄嗟に僕は頭を右に傾けた。
ツーっ、と左の頬から何か液体が垂れる。ぬぐってみると、手に血の赤が付着した。
後ろから、吹き矢のようなもので狙撃されたのだ。反応が一歩遅れていたら後頭部に命中していた。
「いや、そんな問題じゃないか」
僕は苦笑した。これじゃあアリスに笑われても仕方ない。
『吹き矢』なのだ。古来より、『矢』という武器は先端に何か——例えばそう、毒などを塗って攻撃に使う方法がある。
その方法なら、相手に命中せずともかすりさえすれば相手を毒で行動不能にできるからだ。
よって、ギリギリかわせても矢を頬にかすらせてしまった僕は落第点だ。
——ここまで、僕はおよそ一秒に満たない時間で思考した。ほぼ反射的に無意識で行ったのだから慣れとは怖い。
そして結論。吹き矢に毒は、塗ってあった。
遠のく意識。下品ながらチッ、と内心舌打ちしつつ、最後の抵抗で僕は振り返って『狙撃主』を見た。
うっすらボヤける視界のなか、
木の上に立ってこちらを見下ろす『青色』が見えた。
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