複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.6 )
- 日時: 2013/07/30 15:54
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)
6.
どれくらいたっただろうか。
僕は目を覚ました。ただし、無用心に『うめきながらゆっくり目を開ける』なんてマネはしない。
まず、目は閉じたまま耳を澄まして聴覚だけで得られる情報を出来るだけ集めた。
パチっ、チっ……
薪の燃える音がする。
息を吸うと、木の香りと……獣のにおいがかすかにした。
ズッ、と何か、いや誰かがわずかに身動きをする音がした。
状況を整理すると、僕はベッドかなにか、寝床の上に仰向けで寝かされていた。その右隣には『誰か』が1人。そしてここは、少なくとも建物の中だ。
どうやらこの室内に、僕ともう1人以外は誰もいないらしい。
ここで僕はやっと目を開けた。
-*-*-*-
僕が目を開けて、まず真っ先に目に飛び込んできたのは、『青色』だった。
正確には、真っ青な髪だ。目の覚めるような濃い青で、その人物の背中辺りまで伸ばしてある。その人物は、背を向けていた。
座り込んで、何やら作業をしている。とても静かに、黙々と。
(……ん?)
僕は、その青髪の人物の、頭部に違和感を覚えた。
ちょうど耳と同じ位置に、不自然な『三角形』があったのだ。まるで、寝癖のようにピョコンと。
そんな風に観察していると、ふいにその人物が振り返った。
「っ、フギャ!?」
その人物は、僕と目があった瞬間謎の悲鳴をあげて1センチくらい飛び上がった。座ったままで器用だな……。
顔立ちからして、青髪の人物は少女だとわかった。
そして、彼女が振り返ったことで『違和感』の正体が判明した。
彼女は、『獣人族』だったのだ。計らずも、三角形のものは耳で合っていたらしい。猫のような獣のそれだが、耳は耳だ。しゃべるときにのみ口元から見える犬歯、やや浅黒い肌、そして腰から生えているらしき青色のフサフサの尻尾が彼女が『獣人族』であることを物語っていた。
その獣人族の少女が、口を開いた。
「お……お前っ、いつから目覚めていたっ!?」
「つい先程からです」
勇ましい話し方とは裏腹に、若干声が震えている。
敵意はそんなになさそうだ。
僕は上半身を起こした。
左の頬に何気なく触れる。傷は塞がっていた。
その様子を見て、獣人族の少女が(やや怯えながら)言った。
「切り傷によく効く野草の汁を塗っておいた、跡も残らないはずだ」
「ああ、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
しっかり目を見ながら礼を言い、軽く頭を下げた。座った状態から礼を言うならこれがよかったはずだ。
獣人族の少女は、とたんにおもしろいほど髪の色と対照的に真っ赤になった。
「べっ、べつにそこまで礼を言われるほどじゃない。当然の処置だっ」
「そうですか。謙虚ですね」
何故そこまで赤くなるのか僕には理解しがたかったが、どうやら照れているらしい。……普通に礼を言っただけなのだが。あがり性なのだろうか。
それはともかくとして。
僕は本題に入る事にした。
「それで、できればなぜ僕を毒矢で眠らせたのか理由をお聞かせ願います」
ビクーッ!!と大袈裟なくらい彼女は飛び上がった。
……なんというか、どうやって座ったままそうやるのかが非常に興味深い。