複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.66 )
日時: 2013/08/06 22:37
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)

3.

王国革命——ゼルフは確かにそういった。

「革命ぃ?……ディオロラで?」

アリスが思わず聞き返すと、ゼルフは軽くうなずいて肯定した。

「そうだ。ここディオロラ王国で、王家を攻撃して王政をやめさせる」
「まさかとは思うけど、あんたが首謀者なの?」
「いや、首謀者は別人だ」

僕は、とりあえず黙って昼食をとりながら、成り行きを見守っていた。
アリスは目を細めて睨むようにゼルフを見、数秒そうしてから言った。

「あ・や・し・い」
「……何がだ」
「だって絶対おかしいでしょー。あんだけめんどくさがりやなあんたが、しかもよりにもよって人間の国の革命に手を貸すぅ?ありえないわー。さぁ、本音を吐きなさいっ!」
「だから、ただの手伝いだ。……なんとなくそういう気分になっただけだ」
「だからそれがおかしいって言ってんの。それともなに、首謀者が人外なの?あるいは女だったり?」
「お前の脳、破壊してやろうか」
「ごめんごめん、最後のはジョーダン」

恐ろしい殺し文句をサラリと言ってのけるゼルフ。
葡萄酒を一口だけあおり、ゼルフは話を戻した。

「首謀者は人間だ。とりあえず戦うことしか能がなさそうな筋肉馬鹿が3人ほど、そいつらをとりまく輩数千人が革命団の人数だ」
「……んで、あんたは……まあどういう理由かは知らないけど、そこに加わっている、ってワケね?」

ちょうどここで僕は昼食を食べ終わった。
一つ質問をしてみる。

「ディオロラ王朝に、そんなに不満をもっている人々がいるのですか?僕が思う分には、そんなに問題はなさそうに思えましたが」

するとゼルフは答えた。

「それはなレノワール、お前が人間じゃないからそう思えるんだよ。いや俺も人間じゃないが」

ディオロラ王国は、現在『アルフィア=ヴィ=クララドル=ディオロラ4世』という名の若き王が治めている。ちなみに国民からの通称はアルフィア皇子、もしくは閣下。
余談だがこういう名前の人を見ると、僕の名前なんてかわいらしいものに思えてくるが、……そもそも僕は一般の魔獣なので、やはりこの本名は使いずらい(実は『ブライアント=レノワール』をこちらの世界の文字にすると、30字以上になったりする)。

アルフィア王は、実質上『王』の位を持っているが、王位継承をしたのはまだたったの5年前である。
しかし彼の周りの有能な大臣や王室貴族、家来たちがいるため、少なくとも悪逆非道な王政は築かれていないはずだ。
王自身についての噂にも、これといって『わがまま』だの『極悪非道』だのといった話題は聞かれない。

ならばなぜ、革命が起こるのだろう。

「欲望だよ。革命団は、『もっといい暮らしをしたい』という欲望から動いている。今よりもさらに、な」
「ということは、革命団はスラム街出身者が結成しているのですか?」
「まあ半数は貧民だな。……もう半数は便乗した下流家庭やら小貴族やら、だ」

ゼルフはいったん言葉を切った後、独り言のように続けた。

「いつの時代でも人間は愚かだ。王者として上に立つために同族を踏み台にし、成功しても今度は踏み台にされたヤツが引きずり落とす。そいつがまた欲望のために誰かを踏み台にし、また踏み台にされたヤツが……。繰り返しだ」
「…………」

僕は共感も反対もせず黙り、アリスは静かに続きを促す。

「まあ、俺はそんなことしか考えない無能な愚か者には興味ない。たまに心臓でもぶっ壊して殺してやりたくなったりはするがな。——問題は、そんなヤツらに巻き込まれる側のヒトたちだ」
「一般市民ってこと?」

アリスが尋ねると、ゼルフは「そうだ」とうなずいた。

「正確には、『人外の』一般市民だがな。この国にも様々な種族がいるだろう。俺は、馬鹿な人間どものせいで本来は人間より優れているはずの種族が虐げられ、破滅させられるのを見たくない。——だから俺は革命に手を貸すことにしたんだよ、なるべく速く、とっとと戦争を終わらせるためにな」

話を聞き終わって、アリスはこう言った。

「なーるほど?確かに、あんたが加われば人間の戦力何千人分……どころじゃないわね。もっとかしら」
「褒めるな。実質上人間の戦力何万人分のお前に言われても嬉しくはない」
「ふふふ、だってあたしは天才美女魔導師だもの♪落胆することはないわよ、それが当然だから」

『褒めるな』と言ったときに、まったく照れたようでも謙遜した風でもなく、まさしく『どうでもいい』といった風体で言ったゼルフはこのあたりがさすがである。あのアリスとまともに話せる人物であるだけのことはある。

「ライト、それ褒めてるんだかけなしてるんだかわかんないから」
「……ん?いきなりどういう意味だニンフェウム」
「ああニーグラスさんは気にしないでくださると助かります。……アリス、人の考えを読まないでくださいと何度言えばわかるんですか」
「だーって『わかっちゃう』んだからしょうがないじゃない♪」

……閑話休題。

-*-*-*-

「それでまあ、さらに革命戦争の終わりを早めるためにもお前に協力してもらいたいわけだ、ニンフェウム」
「ふーん……ねぇ一つ聞いてもいい?」
「なんだ」

アリスは椅子に横向きに座り、足をプラプラさせながら尋ねた。

「なんでわざわざ『革命団の味方』なわけ?王室側じゃなく」
「王室には人間しかいないからだ」

即答であった。
……となると、ディオロラ王朝の敗因は人外種族を雇わなかった、ただそれだけということになる。破壊神のゼルフに、さらに紅玉の魔女アリスが加わってしまえば革命団の勝利は確実すぎるほど確実だからだ(召え魔の僕が言うのもアレだが)。

そう、ディオロラ王国は宮廷魔導師も人間なので威力はないし、騎士団などの部隊も皆人間。ほかの国のように、武力重視な獣人族などを雇ったり、ということが全くないのだ。まぎれもない人間国家である。

「革命団には人外もいるのですか?」

僕は尋ねた。

「少数だがな。……で、手伝ってくれるか、ニンフェウム」
「そーねぇ……」

アリスは思案するように数秒考え、——数秒で決断した。

「いいわよー、秘薬造りが終わったら割と暇だったし」

いや暇つぶしですか。そこはもうちょっと『旧友の頼みだから』とかもっともな理由をつけませんか。

「あと旧友の頼みだから」

無駄にキリッとした顔で決めないでください、人の案を盗んだだけでしょう。

「いきなりなんだ、旧友だなんて……気持ち悪いぞ」
「はーいー?」

にこやかに笑ったまま紅玉の瞳に殺気が宿った。

はぁ……なんだかまたひと悶着起こりそうだ。