複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.72 )
日時: 2013/08/08 18:23
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)

6.

自らを『セラ』と呼ぶその少女を追って、僕とフォルスも再び店内へ戻った。
フォルスはお茶が出しっぱなしだったため、手際よくそれを片付けながら、

「床に転がってるのは気にすんな。商品は壁の棚、保存状態がよさそうなのが売り物だから」

と言った。なんともざっくりとした説明だ。
しかし少女は、棚の商品より床に散らばっているモノに興味を示していた。

「すっごいねー、コレ爆薬?」
「ああ。そこにある赤いビンの液体と混ぜると爆発するぞ、」

フォルスはそのまま『ま、嘘だけど』と続けようとしたらしい。が、その前に少女はピョイッ、とジャンプでその赤いビンまで移動し、

「えい」

何のためらいもなく、フォルスが説明した薬品を混ぜた。

シ…………ン

「……ま、嘘だけど。ホントに混ぜるとはな」
「えー、なぁんだつまんないのー」
「あの、さっきフォルスが言ったことが嘘ではなかったらどうなさるつもりだったのですか?」

僕が尋ねると、少女はニィ、と無邪気に笑った。

「ドッカーン、でしょ?おもしろそうだったのにっ」
「普通の店だったら材料費弁償しろって言われるぞ、お前」

フォルスが言った。相変わらず無表情だが、言葉のニュアンスからしてあきれている様子だった。
しかし少女はまったく悪びれた風もなく、

「だってここ、『普通の店』じゃないんでしょ?それにおにーさんさっき『商品は壁の棚』だって言ってたしー、セラは床のヤツしか触ってないよー?」

とぬけぬけと言った。わざわざフォルスのセリフなど声まで真似ている。しかも、少女ができるとは思えないほど正確に似ていた。
……いったい何なのだろう、この少女は。

そんな僕の心中を察したのか否か、なおも興味深そうに『床』を見回していた少女は、突然僕らに向き直った。

「セラはね、セラフィタっていうの!おにーさんたちは?」
「ログナー」
「嘘だね」

……なんだか今日は、知らない名前をよく耳にする。
フォルスはお見事、と言って肩をすくめた。

「俺は、まぁ少なくともライトには『フォルス』と名乗っている。ああ、隣のこいつがライト。お前の生き別れの兄貴」
「わー感動だねっ、お兄ちゃん、妹ですよー覚えてる?」
「……いい加減にしてくださいお二方」
「「ハイすみません」」

僕が静かに殺気を放つと、図ったように2人そろって謝った。誰がどう聞いてもわかるくらい棒読みだったが。

「あっはは、フォルスっておもしろいねー、ここ住んでいい?」
「駄目だ」
「嘘かな?」
「むしろ今のが嘘じゃなかったら、俺は年頃の娘を誘拐する犯罪者になるだろうが?」

あまりに淡々と話が進んでいく。いや、平行していく。
収集がつかなそうなので、僕はいったん別の話題を提供した。

「セラフィタさん、あなたはご両親などはいらっしゃらないのですか?」
「セラはねぇ、1人っこなの。エルフだから森にいたんだけど、なんか気に食わない植物のオンナがいて、『キヒヒヒ』ってうるさかったから街に出てきたのー」
「そうですか。おかしな笑い方の女性ですね」

……フォルスが意味あり気にこちらを見てきたが気にしない。

「あなたが街に来てから時間もたったのではないですか?そろそろその『植物の女性』も、もしかしたら森からいなくなっているかもしれませんよ」
「そーお?アイツ、『アタシはこの森の最高権力者なんだからぁ♪』って超自慢げに言ってたけどー」

セラフィタは本当に声真似が優秀なようだ。まるでどこかで聞いたことのある声を再び聴いたような気分になる。

「きっと、もっと強い方が彼女を倒したりして新たに支配しているのかもしれませんよ」
「えー、でもさー、森よりこの町のほうがイタズラのし甲斐があるんだよねぇ。人もいっぱい、モノもいっぱい!壊しまくって、困ったり怒ったりしたヒトの顔……最高じゃんっ!」

セラフィタは本当に愉快そうに笑った。
どうやら彼女は、趣味に少し異常があるようだ。ま、僕には関係ない(フォルスの口調をまねた)。

-*-*-*-

そうしていると、カラン、と店の玄関の鈴が鳴った。
珍しいな、この店に僕がいる間に、2人も客が来るなんて。
店主に聞かれると、ある意味怒られそうなことを考えながら僕が振り返ると、

「ん?なんだ、グリフォ……レノワールじゃないか」

黒い外套に身を包み、室内でも相変わらず目深に帽子をかぶったままのゼルフがいた。

「ニーグラスさん、『グリフォ』まで言いかけているならもう遅いかと思えるのですが。あと一文字ですよ?」
「あー、……悪い」

ゼルフは何か、数秒ほど言い訳か謝罪でも考えたようだが、結局普段と変わらず「悪い」の一言で済ませた。

「何、ライトと知り合いだったのかよ?ニーグラス」

フォルスは、僕ではなくゼルフにそう尋ねた。

「フォルスこそニーグラスさんとお知り合いだったのですか?」
「いろいろあってなー。ま、昨日会ったばっかで『いろいろ』なんて何もないけど」

とりあえず、僕ら3人はそれぞれ知り合いや友人関係なのに、お互いにそれを知らなかったようなので、改めて情報交換した。

そのさなかにゼルフは、僕にこう話した。

「グリフォンと『幻影使い』、ああフォルスのことだ。とにかくお前らが友人だということを知らなかったから話してなかったが……。幻影使いは、俺の革命団の一員だ」
「フォルスまでが加わっていたのですか?」

僕は若干の驚きを交えてフォルスを見た。

「ま、接触は必要最低限のみっていう条件付きでな。なれ合いは嫌いなんで。正しくは脅されたんだぜ、破壊神サマに」
「王宮で内部かく乱を起こすのに、かなり有効な技術を持っていたからな」

ゼルフは本当に革命に積極的だ。
……なぜそこまで積極的に協力するのだろう?昼間の酒場での説明のときとは、また違う裏がありそうだが……。
いや、これはあくまで僕の推測、あるいは勘でしかないが。

そんなとき。今まで、ゼルフが気づかないのをいいことにちゃっかり話を聞いていたセラフィタが、急に立ち上がった。
なんだか嫌な予感がする。

「ね、外套のおにーさん!その革命団、セラも入れてよ!」

……予感は的中したのだった。