複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.84 )
日時: 2013/08/11 18:53
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)

9.

なかなか起きないセラフィタを、今日はもうそこで寝かせてあげましょうと僕は提案し(フォルス自身はものすごく嫌そうにしていたのは言わずもがな)、僕は店を出ることにした。

外に出ると、空はもう藍色を帯びていて、星も煌めいていた。
思ったよりだいぶ時間がたっていたようだ。

先進国とはいえ、やはり万能国ではないし時間帯によってはこの街も治安が悪い。いや、先進国でその中央街だからこそ、ともいえる。
なんせ、世界の中心国の中心街なのだ。様々なヒトが訪れるだけではなく住んでもいる。

まぁ僕の場合は、最悪襲われてもグリフォンの姿で飛んでしまえばいいのだから、相手が人間である限りは全く問題ない。

そう思いながら、アリスのいる宿への帰路を歩いているときだった。

「このボクに歯向かうなんて、貴様らは何様のつもりだ!この薄汚いドブネズミどもがっ!!」

人通りも少なくなった通りに、そんな声が大きく響いた。
まるっきり『傲慢な貴族』の物言いだが、その声は言葉づかいとは裏腹にとても若く——否、幼く聞こえた。

宿とは真逆の方向だったが、ほぼ反射的に僕はそちらへ向かってしまった。なんというか、我ながら苦笑物である。
自分自身でもこういった行動が時折理解できなくなる。単なる好奇心なのか、馬鹿正直な正義感なのか……。
不思議とどちらでもないようで、どちらも当てはまりそうな気がする。
まぁ今はどうでもいい。

気づかれないように足音を消し、声がしたほうに近づいた。
そこには、4人ほどの屈強な男と、その男たちに囲まれるように小さな人影があった。
身長ですぐにわかるが、子供だ。全身をすっぽり包む大きな黒い外套、というより布をまとっている。フードを目深にかぶり、顔は見えない。
しかし、これだけはわかった。おそらくこの子供は、かなり良家の貴族の子供だ。
まとっている布から少しだけ覗く、身に着けた服装や装飾から大変高価な材質を使っているものだとわかる。

男の1人が、ニヤニヤしながら子供に一歩近づいた。

「まぁまぁ、そう憤るなよ。おじさんたちは哀れな貧民だから、ちょーっとお嬢ちゃんからお恵みをもらいたいだけなんだなぁ」
「ボクはお・と・こ・だっ!!!」
「嘘ついちゃいかんね、お嬢ちゃんみたいなかわいらしい子が男なわけないだろ?なぁお前ら!」

すると周りの男たち3人は、そろってゲラゲラと下品な笑い声をあげた。

さてどうしたものか。
僕は数秒考えた。そして数秒で結論を出した。

僕は道の街路樹の根元にあった、適当な小石を拾った。
そしてそれを、なるべく手首から上のみ力を込める投げ方で、一番近い男の頭部に投げつけた。

ヒュンっ、

「いっ!!??………」

小石が頭部に命中した男は、白目をむいて倒れた。

「な!?おい、どうしたんだ!」
「なんだ!?」

男たちが警戒する。こちらを振り向く形になり、それで僕は彼らが何の武器を所持しているかがわかった。
3人のうち、2人は小さなナイフ、もう1人は台所にありそうな出刃包丁を持っていた。おそらく包丁を持っている1人が主犯だろう。
皆、このあたりを縄張りにしている小盗賊か何かだろうが、刃物を持つ手つきからして初心者。敵ではないな。

慌てふためいているところを、僕は素早く近づいて、まずは主犯の男の腹に蹴りを入れた。

「ぐはっ!」
「うわ、なな、なんだよこいつ!!??」
「くそ、このガキっ!!」

残りの2人が、ナイフで同時に切りかかってきた。

「ど素人ですね……。まるでなってない」

僕は誰にともなく呟いて、2つのナイフをかわした。振り返りざまに2発続けて手刀を叩き込む。一つは片方の男の背中、もう一つは片方の男の脇腹を狙った。
背中に手刀を入れたとき、妙な音がして男がくぐもった叫びをあげた。しまった、最近は人間以外を相手にしていたから、力加減を誤ったか……。

まあ、どうせ悪人だから問題ないだろう、たぶん。
ここまでの一連の動作が終わり、僕の目の前には気絶した男4人が倒れる様が出来上がっていた。
もう逃げてしまったかな、と思いながら僕が子供のいたほうを振り返ると、

「じぃー……」

なぜかものすごく近くで凝視されていた。

「じぃー……」

しかもなぜか擬音まで口で言って凝視してきている。

「じぃー……」
「……あの、お怪我は?」

とりあえず僕がそう話しかけると、その子供はブンブンと首を横に振った。
振ったことで、フードがはらりと落ちた。まるで炎のような赤髪と、幼い顔があらわになる。
瞳はとにかく大きく真ん丸で、幼さ特有もあるがそれ以前にその子供の顔立ちの特徴を表していた。まつ毛も長く、他の顔のパーツも線の細いもので、なるほど少女にしか見えない。

と、その少女のような自称男の子供は、その口元の端を上向きにあげてニッコーリと笑い、

「よし!決めたぞ!!」

と言った。唖然としている僕に、ビシッ、と小さな人差し指を突きつけ、彼はこう言った。

「お前をこのボクの護衛にしてやろう!光栄に思え、『エメラルド』!」