複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.9 )
- 日時: 2013/07/30 15:57
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: 6Ex1ut5r)
8.
さて、それから僕はいったん考えることにした。
花粉に毒の危険があったことは知らなかったため、ハウリーが助けてくれたのは確かにありがたかった。
しかし、アリスからの命令で花粉の採取はしなければならないのだ。
でなければ召え魔をクビにされてしまう。
ちなみに、クビにされると『深淵』と呼ばれる亜空間に永久に閉じ込められる、という刑が待っている。そういう契約なのだ。
深淵に封印されると、まあ簡単に言えば『死ぬ』のと似ているかもしれない。それほどおそろしいところなのだ、深淵は。
閑話休題。
「ハウリー、お聞きしたいことがあるのですが」
「ん?どした」
「あの花の花粉とは、どうしても採取不可能なのですか?」
ハウリーは、不思議そうに答えた。
「まあ、別に『ゼッタイ無理』ってわけでもないけど…。なんでそんなにアレが必要なんだ?毒で死ぬ危険はあっても利用価値はなんもないぞ?」
「いえ、ありますよ。少なくともアリスにとっては」
なるほど、完全不可能というわけではない…か。
最悪死んでしまっても、アリスなら蘇生魔法くらい使えるので(しかしこれは世界中で『禁忌の黒魔術』と呼ばれているのであまりお勧めしない)、そのあたりは問題ないだろう。
死んで意識を失う前に花粉の採取が成功すればいいのだが。
と、そこまで考えているとハウリーが話しかけていた。
「なあ、その『アリス』ってなんだ?……もしかして女の名前?」
「ええ、アリスは女性ですよ。たぶん」
「へーそっか、って『たぶん』ってなんだ!?」
「ああ失礼。『女性です』」
容姿なんて自由自在だからな……。もっとも本人の前でこんなことを言おうものなら恐ろしいことになる。
「えっとその、アリス……さんは、ライトの……なんなんだ?」
ハウリーは探るように尋ねてきた。知らない人物名がでてきて警戒されたのかもしれない。
「主ですよ。僕、召え魔なんです」
「え、召え魔っ!?ライトが?」
「はい。アリスは魔女です。『紅玉のアリス』とも呼ばれているのですが、聞いたことはありませんか?」
「あ、あ〜ごめん。ウチずっとここで暮らしてて、世間知らずだから……」
「そうでしたか。いえ、無駄に悪名高いだけなので知らなくても暮らしに支障はまったくない情報ですよ」
「……ライトってすっげえ丁寧語なのに毒舌半端ないよな」
「そうですか?」
おっと、そろそろ世間話が過ぎてしまった。
「では、僕はそろそろおいとまします。アリスの下へ帰らなければならないので」
「え、もう行っちゃうのか……?」
ハウリーは名残惜しそうに言った。
森の外から来た者と話すのが新鮮だったのかもしれない。
「アリスからの命令も達成していないので」
「そっかー……。あ、なんかゴメンな?ウチ、早とちりしたみたいで」
ハウリーはすまなそうに言った。
「いえ、お気遣いなく。またお会いできるといいですね」
そういうとハウリーは、なぜかまた顔が真っ赤になった。体質なのだろうか?
とにもかくにも、別れを告げてハウリーの住処から出ようとしたときだった。
「止まれ」
入り口から一歩出た瞬間、突然のど元にチクリと痛みが走った。
長槍を、突きつけられていた。