複雑・ファジー小説

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.90 )
日時: 2013/08/14 20:09
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)

13.

僕は、失礼ながらもヴィルにこう尋ねていた。

「失礼ですが、あなたは現在、おいくつですか?」
「今年で齢8になるが?」
「……」

じゃああなたは3歳で王位を継承したことになるのですが。
いや、そもそも彼の言っていることは、初めからいきなり矛盾している。

「ヴィル、冗談はやめていただきたいのですが。『アルフィア国王』は5年前に、"21歳"で王位を継承したのです。そして現在は26歳のはず。少なくとも、僕はそう聞きました」

そう、ディオロラ王国の王は現在26歳のはずなのだ。
普段、王家の者の姿そのものは、一般人では見る機会など祭典の時ですら皆無なほど人前に現れないのだが(民衆の前では必ずベールなどをかぶっている)、王位継承は全国民の前でしっかりと行われた。
僕は実際に見たわけではないが、誰もが『栗色の髪の青年王が、王冠を継承していた』と語っている。

しかしヴィルは、全く動揺する様子も見せなかった。

「26歳のほうは、ボクの兄だ。義兄、と言うたほうが正しいか」
「義兄?」
「言ったであろう、ボクは父上と母上の子供ではない。妾子である。そして兄が純血の王子。——本物のアルフィアだ」

ヴィルは、そこでフっ、と少し目元が陰った。

「ボクは、本当の名を知らない。本物の母親も行方知らずなうえに、父上——先代国王も、ボクの『最初の名前』は教えてくれずに亡くなった」
「……?すみません、意味がよく……」
「本物のアルフィア国王はな、とっくの昔に死んだのだよ」

あまりに衝撃的すぎることをヴィルは口走った。

「王位を継承した直後にな。敵国の暗殺者にでもやられたのであろう。だが、父上は騒ぎを大きくすることを嫌った。何より、敵国に屈するのが恐ろしかったのだろうな。兄の死は隠蔽され、代わりにボクが勝手に王とされた。……馬鹿馬鹿しいだろう?一般市民の前では姿を見せない伝統を利用したのだよ」

——ただ、ベールの中に代わりに置くヒトガタの人形があればそれでいい。

ヴィルはボソリと呟いた。
ありえない。
僕はただそう思った。

『あらゆる可能性はいかなるものでも存在するものよ、だから否定の言葉、とくに"ありえない"は一番使っちゃ駄目ね、だってそれ、考えることができない馬鹿人間の定型文句だもの』

アリスがいつか言った、珍しくも真剣な内容の『注告』を思い出したが……。それでも、ありえない。

何よりも、

「そんな国が傾く程の重大機密情報を、なぜこんなところでベラベラしゃべくってるんですかあなたは。事態が急すぎるのですが」
「はっはっは、エメラルドでも慌てる事態があるとはな!なかなかに面白いものd」
「ですからあなたはどういう神経回路をしているのですか!」

なぜこんな会話を8歳の子供ができるのかが最大の謎である。
というかこの少年、年齢すら偽っているのでは……?そうとしか思えない。見た目はともかく。

「ま、とにかくそういうわけだからボクは逃げてきたのだよ」
「……王城からですか?」
「うむ。国政なぞ、ボクの事情を知っている大臣どもがすべてやってのけているからな。そもそも、必ずボクでなければならない理由などどこにもない。文字通り『形だけの王座』など、最初からそこらへんの妾子にくれてやれば良かったものを……。喉から手が出るほど欲しがってたぞ、あ奴らは」

僕は、尋ねた。

「あなたは、何が目的なのですか?」
「む?ボクの目的か?……そうだな」

ヴィルはしばらく考えた後、至極真面目な顔で答えた。

「貴様を家来にするのがとりあえずの目標だな」
「そろそろ帰りましょうかアリスも冷静になるころでしょうし」
「なーぜーなーのーだー、貴様にとっても悪い話ではなかろ!」

こういう場合のみ、甘ったれた子供のような声で駄々をこねる。
偽りとはいえ、本当にコレがこの国の国王なのか……?と僕は脱力気味にそう思った。




後に、ヴィルがこの身の上話を僕に聞かせてくれたことが原因で、僕はますます面倒な事態に巻き込まれるわけなのだが……。

(現時点でとっくに面倒事の渦の中心にいるからあまり関係はない、か……?)

Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.91 )
日時: 2013/08/15 18:57
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)

13,5.

-*アリスside*-

がばーっ、とあたしはテーブルに突っ伏した。

「またやっちまったぁぁぁ」
「ま〜ま〜、元気だして、スーちゃん」

やや苦笑混じりながらも朗らかに笑いながら、あたしの親友リーちゃんこと、リリアーナは慰めてくれた。

「私のことかばってくれたんでしょ?それにあの男の子も、ライト君が一緒だからきっと大丈夫よ〜」
「だといいんだけどぉー……」

突っ伏したままあたしは答える。

全く、あたしもいい加減に『リーちゃん離れ』しないと……っていつも思っているのに。
リーちゃんに関することで、特に『リーちゃんを悪く言ったやつは許せなくて激昂してしまう』のはあたしの悪い癖だ。
必ず後で冷静になってから、自分も悪かったことに気づくのだけど……。

「ど〜しても最初はカッとなっちゃうのよね〜。こう、『思いっきりぶちのめしたろかぁええオイ』みたいな」
「スーちゃん、そんな怖いこと言ってたらせっかくの美人が台無しよ〜」

リーちゃんはココアを入れてあたしのテーブルに置いてくれた。お礼を言って受け取る。
窓の外は、月が真上にまで登っていた。
あ、秘薬造りの第2工程の時間がそろそろ……
じゃなかったわ、馬鹿じゃないのあたし。

とにかく、ヴィル……はもう戻ってきてくれるかわからないけど、少なくともライトが帰ってくるまでは待たないと。
いっつも馬鹿らしい喧嘩ばっかしているけど、こういう場面では謝罪とかその辺、きっちりしておかないと召え魔を従える魔女として失格だもの。

「ねぇ、スーちゃん」
「んー?何」

リーちゃんはカウンターに腰掛けて、尋ねてきた。

「なんでスーちゃんは、そこまでして私のために怒ってくれるの?私はそこまで気にしていないのに」
「あ〜それはもう、ホントごめんね……迷惑よねぇ、リーちゃんにも」
「そんなことないよ〜、スーちゃんはずっと前からそういう子だって知っていたし、今さらだもの〜」

フォローになているのかいないのかビミョーな切り返しをしてくる。ま、それがリーちゃんの天然なかわいさなんだけど。
あたしはココアを一回すすって、リーちゃんに話した。

「なんかねぇ、思い出しちゃうのよ。リーちゃんと初めて会った時のこと」
「私と?」
「そ。覚えてるー?リーちゃん、村のガキども……じゃなかった、子供たちに散々悪口言われていたわよね」

あたしは子供の頃を思い出した。

リーちゃんの、このちょっと不思議でポワポワした性格は、子供の頃からそうだった。
人間に対するときと同じくらい動物や植物もみんな大好きで、何もしゃべらない木や花にさえ平等に接する子。リーちゃんはそんな子供だった。
でも、そんなリーちゃんは周りの子たちから、『ちょっと不思議な面白い子』ではなく『人間以外と平気で話す、気味の悪い魔女』として認識されてしまった。
こればかりは、リーちゃんの生まれた時代が悪かったとしか言いようがない。魔女狩りのご時世だったんだもの。
そんなこんなで、リーちゃんは周りの子から好き勝手言われていじめられていたのだ。

あたしも似たような境遇で、実際にあたしはいじめられたわけではないのだけれど(あたしは『普通の子』を演技で貫いたわよ。ママの鬼教育のおかげでね……)、でも、なんだか息苦しい生活が続いていた。
だからかばったのだ、いじめられていたリーちゃんを。

でもその数年後、それがきっかけであたしとリーちゃんは結局魔女狩りによる処刑台行きが決定。ママは、あたしを守るために『禁忌の第4魔術"運命の輪"』を使役して死んでしまった。

(……ま、後に『霊界通信魔術』で話してみたところ、あの世でパパといちゃついててそれなりに幸せそうだったからよかったけど)

とにかく。そのときの様子の記憶が、まざまざと蘇ってくるのだ。

「……だから、リーちゃんの悪口がつい許せなくなっちゃうのよ」

あたしがそこまで話し終わると、リーちゃんはただ一言、

「そっか〜」

と言った。
やっぱりどんなときでもリーちゃんはリーちゃんだ。
普通の人だったら、こんな話にそんな軽い切り返しをされたら怒るかもしれない。でもあたしは、むしろこれくらい軽ーい感じで言ってくれたほうが安心する。なんだか、普段のあたしとだいぶキャラが違うのを戻してくれるから。

「さぁてシリアス展開はここまでね!まーったくあの毒舌召え魔、どこまで逃げたのよっ。どっかでヒトと無駄話でもしてるのかしら?」
「案外そうかもしれないわねぇ〜。ライト君は人が良すぎるから、つい相手の話を聞きいっちゃうし〜」
「フン、主を待たせるとは何事よ、アイツが早く帰ってこないとあたしが薬造りの続きに取り掛かれないじゃない!」

『あなたが原因をつくった張本人でしょうが!』という幻聴が聞こえてきそうだが気にしない。

と、そんなときだった。

カラン、と宿のドアベルが鳴る。

「あ、やっと来て……ないわね、何だゼルフか」
「『何だ』とは何だ。ヒトの顔を見て開口一番に……」

入ってきたのは、ゼルフだった。
相変わらず昼夜かまわずに重そうな外套と帽子という重装備。

「あんたその恰好、暑くないわけ?」
「お前は淑女としてもっと露出を控えるべきだと思うがな。風俗かなんかと間違われても知らんぞ」
「フッフッフ、あたしは高いわよ〜♪」
「馬鹿か」

そう一蹴して、ゼルフは室内の壁にもたれかかる。

「んで、何しに来たの?あんたも泊まり?」
「いや、ちょっとした情報を掴んでな。『下見』、といったところか」
「ふーん?」

あたしはそれとなくゼルフを眺めた。
少し視神経に力を加え、『相手の"魂"』を視るように念じる。途切れ途切れに、あたしにしか聴こえない『ゼルフの声』が聞こえ始めた。

≪…………計画通り………だが……あとは……≫

「おい」

しかし、顔をわずかにしかめたゼルフに邪魔をされた。と、いうよりガードされた。

「他人の心を読むのはお前の召え魔だけにするんじゃなかったのか?また同じようなことをしたら今度こそお前の脳みそ破壊するぞ」
「やっだ〜ゼルフ君てばこわーい♪」
「どこぞのバカ娘だお前は」

あきれたようにゼルフはいう。

むぅ、やっぱり魔族とはいえ『神』ともなると、そう安易には心は読めないわね……。
世界最強の魔女でもさすがに、神族に魔力で対抗されたらなかなか打ち勝てないもの。
なーんかいろいろアヤシイけど……ま、今はいいか。

あたしはもうしばらく、あたしの召え魔を待っていた。