複雑・ファジー小説
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.99 )
- 日時: 2013/08/17 18:50
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)
14.
「本当に時間を置くだけで大丈夫なのか?鬼のような形相だったが」
「以前からそうでしたから」
鬼、というより悪魔のほうが合っているような気がするのは個人的な意見だ。
僕とヴィルは再び宿の前に戻って来た。
と、その時。
「……?」
僕は妙な気配を感じた。
「む?どうしたエメラルド」
「いえ、少しヒトの気配がしたので……それも何人も」
僕は宿の前の、小さな広場で立ち止まって周りをグルッと見渡した。
……やはり、いる。あちらこちらに身を潜めている。
しかし、妙なのは、
「これだけいるのに、誰も殺意を持っていない……?」
そう、一向にこちらを襲う様子がないのだ。
別の人物でも目的なのか、と思ったがそうでもないらしい。
こいつらは全員、僕たちを目的としている。だが、ただ観察するように眺めるだけで他には何もしてこない。
——不気味な光景だった。
「むぅ、ボクにはさっぱりだぞ。それより早く入らないのか?いい加減空気も冷えてきたぞ」
「……そうですね。行きましょうか」
今はまだ、問題がなさそうなので僕は『潜んでいる彼ら』を素通りして宿に入った。
-*-*-*-
宿に入ると、予想外の人物がいた。
「よぉ。やっと帰ってきたみたいだな」
「……今晩は、ニーグラスさん」
僕は内心、まずいなと思った。ゼルフは革命団の幹部、それも実際の主催者を押しのけてほとんど彼が革命団の頂点ともとれる人物なのだ。
そして、たった今僕が連れてきたのは、これから革命が起こるかもしれない王国の現国王(家出中だが)。
あまりこの二人を接触させたくはなかったのだが……。
「む、なんだエメラルドの知り合いか」
「ああ。こいつが噂のガキか。悪魔アリスを召喚したっていう」
ゼルフは若干面白そうにヴィルと挨拶を交わした。
……もしかしなくてもだが、僕は今、かなり際どい光景を目の前にしているのかもしれない。
「『悪魔アリス』とは何よー。確かにあたしも悪かったけど!」
アリスが話に入ってきた。
「頭は冷えましたか?アリス」
「おかげ様でねー。さっきはごめんねーヴィル君」
かなり軽い表現で謝ったアリスだが、ヴィルは意外とすんなり許した。
「気にするでない。ボクもそれなりに非があったと認めよう」
「オッケー、んじゃ仲直り成立っと」
この人は、もう少し誠心誠意謝るということを覚えないのだろうか……?
せっかく本心では本気で反省しているというのに。いや、しかしもしアリスが、そんな真面目に謝ったとするとそれはそれで気持ちが悪い。
失礼な、と言いたげにアリスがこちらを睨んできたが黙殺。
「それより、ニーグラスさんはなぜこんな夜中に?」
僕は尋ねた。
「あーまぁ、なんというかアレだ」
「アレ?」
「それよりニンフェウム、お前秘薬だかを造るって言ってなかったか?いいのか、ほったらかしで」
するとアリスは、
「あー!そうだった、忘れてたっ」
とバタバタしながら2階に駆け上がって行った。
「待っている間に済ませてしまおうと思わなかったのですか……」
僕はあきれ気味に言った。
するとリリアーナがこう言ってきた。
「あら、スーちゃんはライト君とヴィル君が帰ってくるの、待ってたのよ〜。ちゃんと謝らなきゃ仕事なんかできないって〜」
「え?」
「ライト君にはやっぱり照れちゃって言えなかったみたいだけど〜。『いっつもごめーん』って言ってたわよ〜」
スーちゃんから代わりに伝言ね、とリリアーナは笑いながら言った。
「……そうですか」
「若干嬉しそうだなグリフォン」
「ニーグラスさん結局何しに来たんですか」
僕が言うとゼルフは、軽く肩をすくめて見せただけだった。フォルスの真似だろうか……?
なぜかヴィルやらリリアーナまでがニヤニヤしているが気にしないことにした。何か激しく勘違いされていそうな気がするが気のせいだ、たぶん。
「さて、『目的』も達成された、俺はそろそろ帰るか」
ゼルフは帽子を直すふりをしながらそう言った。
「そうですか〜、またいらっしゃってくださいな。今度はぜひうちのお店を利用してくださると嬉しいわ〜♪」
「商売上手だな、人間。まぁ機会があればそのうちな」
ゼルフは外套を翻して宿から出て行った。
……結局、『目的』とやらは分からずじまいだった。
ヴィルとリリアーナは、こちらも先ほどの非礼を詫びて和解していたが、
ふとそんな様子を何気なく眺めていた僕は、突然ハッ、となった。
先ほどのゼルフの行動、あれが少し引っかかったのだ。
僕は慌てて宿の外に出る。
後ろからリリアーナやヴィルが声をかけてきたが、今はそれどころではなかった。
はたして、宿の外には誰もいなかった。
当たり前といえば当たり前だが——
広場には、先ほど宿に入る前にいた、あの気配も消えていたのだ。
あれだけ大人数いた気配が、きれいさっぱり。
魔獣人族というのは、あらゆる感覚が人間より優れているらしい(僕にとっては人間が劣っているように感じるのだが……)。
そして僕は、人間の姿でも、ある程度グリフォンのときの能力——筋力や五感、気配の察知など——が扱える。
だから僕の気配察知は、よほど相手が騙しの術でも使わない限り正確なのだ。
「まさか、やっぱりあの気配は……」
革命団。
僕の中でそう結論が出された。
もしゼルフが、実はヴィルの正体を知っていたとしたら……。
僕は、背筋が少し寒くなった。