複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ?【第2回オリキャラ募集】 ( No.122 )
日時: 2016/06/22 12:29
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)

015 ミカイロウィッチ帝国ルート


「さっきの的当てゲームの賞品は気に入ったかしら?」
シェリル皇女はムチをもてあそびながら、床に座り込むエディを見下ろしてたずねる。
エディは眉をひそめて笑顔の皇女を見上げたまま、何のことだか分からないというように首を傾げる。
だがシェリル皇女は気を悪くすること無く、近くにあった赤いクッションのついた金色の肘掛け椅子に飛び乗ると、足を組んで無邪気に笑う。
不気味なほど上機嫌の彼女は、エディが座っていることも気にならないようで、続けた。
「そうよ、あたしの手駒になるという賞品よ。うれしいでしょ?」
「・・・あの、家族のもとに帰れないというのは—」
おずおずとエディが疑問を口にすると、最後まで言わせないうちに皇女が当然でしょと頷く。
「例えば森でリスを捕まえるとするでしょ?リスを飼うことに決めたあなたは、当然リスを森じゃなくて家で飼うでしょ。ソレと同じよ」
ムチをもてあそびながら鈴を転がしたように愛らしい声で笑う皇女に、エディは思わず怒鳴りつけたくなるが、ぐっと押さえた声で言う。
人を勝手に拉致しといて、それは当たり前のことと笑っているわがままな皇女に掴みかかりたくなる気持ちを抑える。
「家族が心配しているはずです。それに・・・あたしの家族は父さん一人だし、これからもずっと父さん一人で暮らせって言うんですか?」
興奮をうまく隠しきれず怒りが少しにじむ声音に、皇女は怒るどころか
愛玩動物でも見るかのようにエディを見つめる。
小さく非力な小動物がいくら手に噛み付こうが、それは甘噛みでしかない。エディが牙を剥こうが、シェリル皇女にとってアリに噛まれた位しか痛みは感じないのだ。

「そうねぇ・・・かわいそうだし、腕のいい弓兵を舞踏会に連れてきてくれたお礼に爵位を上げてあげようかしら。大金をプレゼントすれば心が慰められるわよね?」
世の中はお金があれば幸せ。幸せは金で買える。欲しいものは金を払いさえすればかえるのだ。
大切な人が殺されても、慰謝料を請求して莫大な金が手に入れば慰められる。つまりそれは、大金≧大切な人だということだろう?
結局金が世界を回し、運命を決める。
シェリルの中ではそれが世界の真理だった。

「そんなもので、慰められるわけ無いでしょ!」
だが、鋭い怒声がシェリルに降り注ぐ。
目の前の非力な少女が、怒りに目を光らせていた。
「大金があったって心は慰められないのよ!あたしの家は母さんが病気で、父さんが必死でお金を稼いで薬を買おうとしたけど間に合わなかった。それで父さんは狂ったようにお金を稼ぐようになったけど、父さんは爵位をもらっても金稼ぎを止めない」
エディは驚いた顔のシェリルをにらみつけながら叫ぶ。
盗賊団の団員は皇女を怒鳴りつける人を始めて見たというように、ぽかんと口を開けてエディを見つめている。
「それはいくら大金を稼いでも心が慰められないからよ!」
「あ、ははっ」しばらくしてシェリル皇女が目を輝かせながら口元に手を当てて笑い出す。目に涙をためながら笑う彼女は、おかしそうに言った。
「気に入ったわ、あなた!私にたてつくなんて気に入らないけど、そういうのも手駒にいたら面白いじゃない?」
シェリル皇女は椅子から立ち上がると、笑いが収まらない中、部屋の中にあるクローゼットのようなものを開ける。
人が何十人も入りそうなクローゼットの中には、武器がずらりと並んでいた。
その中のひとつ、エディの得意分野である弓の一式を取り出すと、それを座り込むエディの足元へ転がす。
そしてまだ笑いが収まらないまま、笑みをたたえた瞳でエディを見下ろした。
「好きなの選びなさい、明日から働いてもらうわよ。明日はカメルリング王国のフランチェスカ王女の魔術に対する情報を仕入れてきてもらおうかしら?」
エディは弓に伸ばしかけた手をピタリと止めて、唖然と皇女を見上げた。