複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.157 )
日時: 2013/08/11 12:00
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)

四桁記念 番外編004 団長の足取り
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盗賊団が結成される前、まだヴィトリアルが帝国の味方につく前のこと。
ヴィトリアルは帝国にも王国にもつかないまま盗賊家業にいそしんでいた。まとまった仲間はいないが、同じ盗賊同士で組み集団で働くことも何度かあった。
その中で何度か一緒に仕事をこなす仕事仲間、いかにも悪そうな顔をしたスキンヘッドの男は気が大きくよく奢ってくれるので別に好きではないがそいつと組むことは多かった。
ヴィトリアルの使う片手剣に対してスキンヘッドの武器は投げ斧なため、武器の相性が良かったこともある。
ただ慣れうことはなく、お互い名前も知らなかったため、”バンダナ””ハゲ、スキンヘッド”などと呼び合っていた。
「ハゲはねぇだろ!せめてスキンヘッドって呼べよ」
「うるさいな、ハゲをハゲとよんで何が悪いんだよ」
今日も仕事が首尾よく終わり、近場の酒場に入るといつもの呼び名についての言い合いが始まる。酒が入るとなぜかこのやり取りが恒例となっていた。
アルコール濃度の高い酒を一気に飲み干すと、スキンヘッドもといハゲがグラスを叩き付けるようにカウンターへ置く。
その迫力に気圧されてカウンターに立つ気弱そうな男が慌ててソレに酒を注いで縮こまった。
スキンヘッドハゲは注がれた酒をまたもや一気に飲み干すと、再び叩き付けるようにグラスを置き、隣のヴィトリアルに文句をたれる。
「かーっ、折角帝国の貴族んとこの金品財宝すっかり奪って気分がいいってのに、ハゲなんて呼ばれるとなぁ、ストライキ起こすぞ」
「馬鹿かハゲ、まだ仕事終わってねぇぞ。明日もう一度貴族街に行ってすべて盗るんじゃなかったか?ストライキなんかその後でいくらでも起こせばいいだろうが」
スキンヘッドハゲにヴィトリアルはあきれたように言うが、酒の入ったハゲは聞く耳を持たずあだ名改定を求め、豪快に笑ったり急に泣き出したり、べらべらとわけのわからないことを喋り捲っていた。

翌日の夕時に宿を出発し、夜に帝国の貴族層が住んでいる通称貴族街にやってくると、目当ての家に忍び込み、有り余る財産をすべて回収した。別に金持ちだけから盗むなんて義賊をしているわけではなく、手っ取り早く確実に稼ぐには、たくわえの無い庶民を襲うより、あきれるほど蓄えのある金持ちを襲った方が早い。
「さっさと帰ろうぜ」
回収した品物を荷車につめ、盗賊とは別のルートで逃げさせた後、使わなかった片手剣を鞘に収めながらヴィトリアルはスキンヘッドハゲを振り返る。
酒がまだ抜けていないのか、スキンヘッドハゲは何か悪巧みをしているようで、気持ち悪いほどニヤニヤしていた。
そして、宵闇の奥にあるどの建物よりも大きな大きな建物を眺めながら言った。
「おい、たしかあそこには金のムチがあるんだったな?」
「あぁ?わがまま皇女のムチのことか?・・・なんでそんなこと今—」
悪い予感がしてならないヴィトリアルに、スキンヘッドハゲは酒の抜け切らない顔で笑う。
「おい、ちょっとそれ盗んでこようぜ!」


やめろ、そう言ってもきかないスキンヘッドハゲにヴィトリアルも折れて、ミカイロウィッチ帝国の宮殿に忍び込んだ。
ヴィトリアル自身も酒が抜けていなかったのかもしれない、でなければこんなところには来なかっただろう。
宮殿内に首尾よく忍び込むと、そのうちあのわがまま皇女がムチを盗まれて駄々をこねる様子を想像し、笑いをこらえるのが必死だった。
さすがに宮殿内では巡回の兵が多く、おまけに攻撃力はあまり持たないがキャーキャーとわめき散らすメイドたちが増える。
小柄なヴィトリアルはいいとして、図体のでかい悪者面のスキンヘッドハゲはかなり目立つ。
二人は酒に酔った勢いで警官に殴りかかるように、兵士を奇襲し、その衣服を奪い取った。
スキンヘッドハゲはその鎖帷子を身につけ、変装する。
ヴィトリアルも変装しようとするが、どれも重すぎて動きづらい。
これではいざ逃げよと思ったとき、足手まといになってしまう。
「うーん、結構でかくて重い鎖帷子だなー他になんか無いのか?」
「メイドでも襲うか?」
「・・・・・・冗談だよな?」酒で少しばかり浮き足立っているが、女装なんてそんなことはしたくない。とりあえず見たものはすべて抹殺する。
そうこうしているうちに魔導師のような姿をした人物が通りかかり、そいつを襲って衣服を奪い取った。
気絶させた兵士たちと魔導師を誰もいなさそうな部屋に放り込み、兵士と魔導師に変装した二人は、金のムチの元へ急ぐ。
大抵王宮の上部か中心に、王族はいるものだ。思惑通り皇女は人々を見下すように、王宮の最上階に部屋を構えていた。


Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.158 )
日時: 2013/08/11 13:10
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)

四桁記念 番外編005 団長の足取り
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「ここだな」
豪華な装飾の扉を見ると、ヴィトリアルもスキンヘッドハゲも一気に気を引き締める。その扉に触れて鍵穴にスキンヘッドが首飾りにしていた金属の針を突き刺し、器用に錠を開けた。
目で合図を送りあうと、そっと侵入する。扉はたっぷり油がさしてあるようできしみひとつ立てない。
部屋は薄暗いが、長年培ってきた第六感を頼りに部屋のあたりの気配を探る。
小さな寝息音がこの広い部屋の何処かから聞こえてくる。どうやらこの部屋には更に扉を隔てていくつか部屋があるらしい。
音を立てないように歩き、とりあえず皇女の元へ行く。皇女はいつも肌身離さず巨大なリボンと金のムチを所持しているという。
そんなに大事なものならば寝ているときにだって所持しているのだろう。

寝息の浅い呼吸音を頼りに部屋を開けていくと、ついに広くて甘ったるい薔薇の香りに満ちた寝室に到着した。
月の光がうっすらと差し込む窓辺の近くに、天蓋の付いたキングサイズのベットがあり、その天蓋の隙間から呼吸の音は聞こえてくる。
月の光が味方してくれるおかげで部屋の中を見回すことが出来た。広い部屋の机、ソファの上、化粧台や鏡の前にもどこにもムチはない。
残すは皇女の眠るベットだけになり緊張しながら覗き込むと、人形のように可愛らしい少女がソレを握り締めていた。
悪夢にうなされた時に人形や毛布を抱きしめるかのように、金色のムチをしっかりと握り締めている。
このムチにそれほど愛着する理由が分からないが、ソレを奪い取ろうと手を伸ばす。
次の瞬間月の光に反射して、何かがひらめいた。
反射的にバックステップして避けると、ヴィトリアルを捕らえ損なったムチの先端が、ベットのそばにあったクローゼットにぶち当たり、その木製の扉を粉砕した。
クモの巣状に陥没した扉がその威力を物語っていた。
「な、んだ?」
「バンダナどうすんだ?!」
その破壊力に驚いていると、スキンヘッドが逃げるか力ずくでも奪うか選択を迫る。
「どうするって・・・ここまで来たからには・・・」
そうは言ったもののいったい何が起こったか理解できず、あっけにとられていると、ぬらりとベットの天蓋の間から、先ほどまで愛らしい姿で眠っていたシェリル皇女が、薄ら笑いを浮かべて出てきた。
ムチを一振りすると、その先端に付いたダイヤ状のものがきらりと光る。どうやら金のムチの先端に取り付けられているのは、かなり大粒のひし形にカットされたダイアモンドのようだ。
ムチのしなりはもともと弱い力を倍増させるが、その先端に付いた世界一硬い物質のせいで、威力はすさまじいものになっている。
アレに引き裂かれたら確実に死ぬ。
と、シェリル皇女が嘆かわしいというように、ムチを撫でながら頬を膨らませる。
「私のムチに手を出そうなんて命知らずね。死んでもらおうかしら」
ちっ、と舌打ちして、ヴィトリアルは片手剣を引き抜き、スキンヘッドは投げ斧を構える。
「あら、ひどいわ」ソレを見て皇女は口元に手を添える。だが次の瞬間にはもう残忍そうな笑みを浮かべてムチを勢いよく振り回す。
「大人しく死になさい!」皇女とは思えないほどの凶悪な口ぶりに皮肉を言い放つことはせず、とにかくここは皇女を殺すしかない。
変装しているが念のため、もし殺せなくとももう帝国で仕事は出来ない。王国に身を寄せるしかないが・・・。
スキンヘッドが斧を皇女に投擲すると、皇女はムチを斜めに目いっぱい振りかざし、そのダイヤモンドで斧を打ち落とす。
そして反動をつけてヴィトリアルとスキンヘッドの方へ一歩足を踏み出し、ムチの報復をする。
ソレを縄跳びでもするように避けたヴィトリアルは、勢いをつけて片手剣を振りかざし皇女ののどを引き裂こうとする。
それを援護するかのように後方よりスキンヘッドが斧を投げ、皇女は舌打ちするとムチを所持したまま真横に飛び込むように転がり、斧と剣を避ける。
結構アクティブな皇女らしい、すばやく立ち上がった彼女は月の光を浴びながらムチをふるう。
軽い衣装のヴィトリアルは再びよけたが、重い鎖帷子を身にまとったスキンヘッドがソレをもろに浴びてしまい、鎧が鋭いダイヤモンドによって一直線に引き裂かれる。
ムチは下から上にと跳ね、スキンヘッドの横顔に真っ赤な線がざっくりと刻まれる。
片目のまぶたまで赤い線が走ったスキンヘッドは片目を瞑りながら力任せに最後の斧を皇女に投擲する。
皇女がソレを避けると同時に、スキンヘッドは膝を付いて床にへたり込む。
ソレが気配で分かったヴィトリアルは、斧を軽く避けてスキンヘッドを見下したように見つめた皇女に歯を食いしばって飛び掛った。


戦闘が入ると長くなっちゃうな