複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.170 )
- 日時: 2013/08/12 18:31
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)
四桁記念 番外編009 ある幻術師の思い出
————————————————————————
「また兄さん先に進んじゃう・・・」
「クウヤずるいなぁ、いいなぁ、僕のほうが多分頭いいのに何で負けちゃうのかな?」
クウヤの風の部屋第三室”親しい者の死”の修行が開始されると、イヴとシランはどんどん星の幻術を覚えていくクウヤに嫉妬する。
さらりと毒を吐く若干11歳のシランは、重い薙刀を引きずるように立ち上がる。とにかく負けてはいられない、頑張らないと。
岩場の地面にしゃがみこんだイヴにシランは手を差し出しながら言う。
「僕だって守られっぱなしはイヤだもん、イヴも一緒に頑張ろう」
「うん」
にっこり笑って重い槍を抱えながらイヴがシランの差し出された手をつかんで立ち上がる。
イヴは集中力が同年代の子供よりある代わりに疲労が激しい。シランは頭の回転が速く相手にどんな幻術をかければ良いか判断できるのだが、他のものに気を取られやすく、幻術をかけている最中に別の物事をぼんやりと考えてしまう。
ソレをなくせば地の3部屋はマスターできると師匠から教えられており、クウヤと肩を並べられるようになるという。
「僕たちも早くクウヤに追いつこう!」
置いていかれてもめげないその能天気さに、イヴは目を輝かせて尊敬した。
「兄さん、兄さんは—」
「こらっ、お兄ちゃんと呼びなさいといっつも—」
「兄さんは幻術をどれくらいできるようになったの?」
その夜、鉱山で火を焚いて野営地で留守番をしているクウヤにイヴがたずねる。シランは硬い地面にもかかわらずうつぶせに寝そべり紅色の瞳を閉じて気持ちよさそうに眠っている。
ソーサラーは固い床に寝かせるのはかわいそうなので、樹海へ下りて沢山の葉っぱでベットを作ろうと葉っぱを集めに行っていた。
その留守をクウヤが預かり、クウヤは焚き火の前に胡坐をかいて剣を抱え込んで警戒している。
イヴの顔を見ると、金色の瞳に赤い炎を反射させて微笑む。
「ん、火と地の6部屋と一応風の一室を使える様になったぞ」
「シランは地の最後の部屋を使えるようになったの・・・私は最後の部屋をマスター中なんだ」
イヴが槍を膝の上に乗せたまま体操座りしてそうつぶやくと、良く頑張ったなぁと頭を撫でてこようとするのでさっと身をかわす。
クウヤは手を伸ばした格好で数秒固まっていたが、しぶしぶ落ち込むようにしょんぼりと剣を抱え込む。
「イヴ・・・お兄ちゃんは悲しいよ〜、ちょっと前までは膝の上に乗ったりご飯食べさせてあげたら喜んでたのに」
「それ6年も前の話でしょ、変なこと言う兄さんなんて大嫌いに—」
あまり大声でそういうことを言って欲しくないと、イヴがむっとして大嫌いになるよ?といいかけた途端、大打撃を受けたクウヤが所持していた剣を取り落とす。
無言で兄の顔を見ていると、クウヤが地面に転がり落ちた剣の柄に手を伸ばしながら何やらつぶやいている。
「・・・・・・だ、大嫌いって言われた・・・大嫌い・・・大嫌いってぇぇ・・・」
「・・・・・・」2歳しか歳は離れていないがイヴよりも背の高い兄が、涙目で落ち込む様子にイヴはぽかんと口をあけて眺めているしか出来ない。
大嫌いと口にするのは初めてなので、この言葉の脅威を思い知る。
11歳の純粋な少女は、大嫌いという言葉は死ねという言葉と同じくらい重いのかもしれないと考え、慌てて謝ろうとするがクウヤがソレをさえぎって叫ぶ。
「お前がお兄ちゃんを大嫌いでも、お兄ちゃんはお前が大好きだぞーっ!」
その盛大なるシスコン発言に真っ先に反応したのは眠りを妨げられて不機嫌そうに起き上がったシラン。目をこすりながら「うるさいよクウヤ」と若干イラついたように答える。常人の反応である。
寝起きの悪さついでに、薄紫色の頭をさすりながらいつも思っていたことをぼそりとつぶやく。
「クウヤ言っとくけど、どんなにイヴのこと好きでも、いずれイヴは他の人と結婚してどこか嫁入りしちゃうんだよ?もう妹離れしてよ」
「な、そのワードは禁句だって言ってるだろシラン!結婚なんてそんな・・・イヴをたぶらかした新郎なんて袋叩きにして海に—」
シランの言葉に、いままでお世話になりましたと去っていくイヴの姿を想像したのだろうか、涙目でとんでもないことを口走ろうとしたクウヤ。だがその語尾をかき消すように闇を劈く悲鳴が聞こえた。
鉱山の下のほう、ソーサラーの降りていった樹海から聞こえてきたその悲鳴は人間の男のものだった。
すぐさま立ち上がって剣を構えたクウヤに、先ほどの狼狽ぶりはまったく無く、緊張したようにイヴとシランの前に仁王立ちする。
「二人とも、俺から離れるなよ」
シスコンで検索をかけた結果、リアルのシスコンはトラウマになるほど恐いということを思い知りましたよw
だがそのおかげでクウヤのシスコンが徐々に開花してきた・・・と願いたい