複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.173 )
日時: 2013/08/12 22:30
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)

四桁記念 番外編010 ある幻術師の思い出
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悲鳴が上がる数分前、樹海に降りたソーサラーはコートの裾一杯に葉っぱを溜め込んで、そろそろ帰ろうとしていた。
これだけあれば弟子達が痛い思いをしないで寝転がれると微笑んでいると、なにやら話し声がしてくるのに気付く。
辺りを見回すと、森の木々の中、赤い松明の灯りがいくつか連なってこちらへやってくるのが見えた。
耳を澄ますと鎧の音や、無遠慮に木々に目印をつけて切りつける音、談笑などが聞こえてくる。
どうやらソーサラーが逃亡してきたミカイロウィッチの兵士たちらしく、ソーサラーと愛弟子達を探しに来たらしい。
「・・・・・・」
物音を立てると見つかり面倒くさくなるので、ソーサラーはじっと身動きをとらずにたたずむ。灯りを持たないソーサラーは黙っていれば見つからないはずだ。
樹海だけを捜索しているのならば鉱山の山頂においてきた弟子達は見つからないはず。大体戦争が終わった直後に、争いの原因である高山に兵士が足を踏み入れるとなると、再び戦争が起こるかもしれない。なので下手に兵士は鉱山へは行かないはずである。
後は自分が黙ってここをやり過ごせばいいだけだ。
と、半径8メートル弱の地点に兵士たちが近づいてきて、会話の内容がはっきりと聞こえる。
森の闇に溶けるように身を潜めながら、ソーサラーは聞き耳を立てる。
「早く見つけ出してさっさと帰りたいぜ」
「だな、おい、お前いつまで遊んでるんだよ」
心底疲れきったように松明を掲げる兵士たちが愚痴をこぼす合間に、最後尾の男が機械的に引き抜いた剣で木々を切りつけていた。
その男に声をかけた兵士は、あきれたように片手を腰に当てて言う。
「目印をつけてるにしちゃ、適当すぎだろ」
「ちげぇよ、俺はただこの新品の剣の切れ味を確かめてるんだよ」
兵士の言葉に、最後尾の男は憤慨したように言うが、下卑た笑みを浮かべた。
「・・・あんまり音を立てるなよ。捕らえる相手は幻術師だぞ?それなりに危険だからやめろ。もしものときはガキを人質にとって—」
「何ビビってんだお前、相手は戦いでぼろぼろの元占星術師で子連れだぜ?」
「お前こそ何自信過剰なんだよ?ガキを人質にとって3人の内どれかを始末して戦意喪失させないと安心なんて—」
前を歩く兵士があきれたように主意を喚起するが剣を振り回す男はソレをやめない。それどころか危ない発言をする。
「いや・・・むしろ特殊な幻術師が4人もいたら王国に渡るやつも出るかもしれないからな、いっそのこと一人残して後は切り捨てちまおうぜ」
「・・・・・・」
その狂ったような男の発言にソーサラーは決心し、かがんで足元に転がっていた長めの木の枝を拾い上げる。
手を下すのは不本意だが、愛弟子を殺そうとしているあの危険な男と兵士達は生かしてはおけない。
何かの間違いでどこかで出くわすことになったら、あの男達は愛弟子達に襲い掛かるのだろう。その前に—
深呼吸すると、禁忌の水の3部屋最初の第四室”罪滅ぼし”の部屋を開放するためにその名前を叫ぶ。
「 カンケル 」
部屋が開放されると、兵士たちが驚きの声を上げて硬直し、それから続けざまに涙を流し、虚空に向かってやがて懺悔をしだす。
ソーサラーは嘆く彼らを直視することをためらい、目を伏せた。
水の3部屋は特にひどい幻術だ。水の部屋第四室カンケルは人々を後悔に至らしめる部屋で、生まれてからこの瞬間までしてきた非道な行いを攻め立て懺悔させ、どうしても悔やみきれなくなったものは—自らで命を絶つのだ。
ごめんなさいごめんなさいと悲痛に満ちた悲鳴に似た声をあげて、兵士たちが武器を抜き、ソレを自分に向ける。
「おいどうし—う?!」
哀願の声を聞いて他の捜索部隊が駆けつけて来たとき、狂った男以外が皆自害していた。この幻術は相当神経の図太い人物か精神力のある人物以外生き残れない。
狂った男は涙を流して哀願するも、剣を自らに向けようとしない。
「何があったんだ!?」
その光景の中ただ一人泣いている男に向かって一団が疑問をぶつけるがソーサラーはすぐに二部屋目を開放した。
「 スコルピオ 」により水の部屋第八室”召喚”の部屋が開かれ、兵士たちの前にバケモノが舞い降りる。
闇の中で松明を照り返す鱗を持つ、巨大な蛇。そいつが残忍そうな笑みを浮かべ、兵士を毒牙にかけ締め付ける。
召喚されたバケモノに恐怖を抱くと、実際に殺されてしまうのだ。これはかなり危険であり、水の部屋最後の部屋と並ぶほど禁忌といっていい部屋だった。
その蛇にやられて兵士たちが悲鳴を上げるが、すべて終わってももう加勢に来る者たちは居なかった。
ソーサラーは亡骸の彼らに手を合わせると、部屋を閉じ、心の中でほっとする。
12の部屋の中で一番凶悪で禁忌の第十二室を開放せずに済み、本当に良かったと何度も胸をなでおろした。



あとちょっと続く!