複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.176 )
日時: 2013/08/13 16:40
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)

四桁記念 番外編012 ある幻術師の思い出
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シランが両親と共に樹海を走り抜けていた頃、イヴとクウヤは少し大きめの獲物をとってソレを運んでいた。
「このくらい大きな獲物取れば・・・師匠元気出してくれる、かな」
イヴが獲物を運ぶクウヤに尋ねると、当たり前だろと笑う。
イノシシの足を引っ張りながら「これ少し重いから昼になっちゃうかもしれないけどさ」と満足げに獲物を眺めるクウヤの言葉に、イヴは不安そうに頷いた。

クウヤの予想した通り、昼ごろにやっと山頂に付いた。さっそく先についているだろうシランに自慢しようと意気込むのだが、シランの姿は無い。それどころか、寝たきりの師匠ソーサラーの姿も無い。ただ大勢の帝国の兵士が岩場に腰を下ろして、きょとんと座っていた。
「お、お前ら師匠とシランをどうしたんだよ!」
その光景を見ていのししを放り出したクウヤがイヴをかばうように剣を構えて叫ぶと、兵士たちがそろってこちらを見た。
だが剣を抜くどころか驚いている様だった。
「答えろ!」とクウヤがすごむと、兵士たちは武器を放り投げ、心底困ったように首を振る。
「兄さん・・・この人たち?」イヴが異変を感じ声をかける。
「なんかこいつらおかしいな・・・」クウヤもこの不気味な連中から少し後ずさる。武器を向けてくるわけでもない完全に戦意喪失の彼らが、恐ろしい。何があったのだろうか。
「喋れないのか、おい?むしろ・・・言葉が・・・分からないのか?」
ただ困ったように首を振り続ける兵士たちは、地面に文字を書くことも、話す素振りもしない。
そのうちの一人が立ち上がろうとして立てずに倒れる。まるでソレは生まれたての赤ん坊のような仕草。
「この人たちどうしたの・・・?記憶が無いの?」
イヴがこわごわと辺りを見回し、その場にまともな人物がいないことを悟るとクウヤにたずねる。
クウヤは剣を構えながら、推測を口にする。
「記憶が無いというより・・・生まれてから今までの記憶がなくなったみたいな感じだな、喋れない立てない文字もかけない言葉が理解できない・・・全部赤ん坊みたいだ」
この人たちどうするのというイヴの言葉に返事はせず、クウヤはイヴの手を引っ張り、歩き出した。
不気味な記憶の消えた彼らの間を歩き、何か手がかりを探す。
そして焼きすぎて黒焦げになった鳥を発見し、シランが狩りから帰ってきていたことを発見する。
つまりこの異様な光景が起こる前か後、もしくはその最中にシランはここに居たのだ。
その傍に、赤い血が付いた包帯が沢山落ちていた。紛れも無い師匠の包帯だろう。
金色の目を見開いてその包帯を拾い上げると震える声で言う。
「師匠が幻術を使ってみんな倒したけど、捕まっちゃったんじゃ・・・シランも多分一緒に・・・」

クウヤは血まみれの包帯を握り締めると、イヴをつれて帝国へと行き彼らを助けようと決心した。
イヴも同意し、樹海を抜けて帝国に行くが、シランとソーサラーを探し出すことが出来なかった。そして兵士たちを片っ端から襲い、たずねて回るにつれて帝王が二人に御触れを出した。
手駒となるなら行方不明の師匠と弟子を探してやるというものだった。
そこで二人は帝国の手駒となり、行方不明の彼らを安否を、4年たった現在でも待っている。
だが帝国は彼らを死んだものと考え、まったく探していないことを、二人は知らない。


あの鉱山の山頂で禁忌の水の部屋第十二室、”喪失”のピスケスを開いたソーサラーは彼らの思い出と記憶をすべて奪うと、力尽きて倒れた。
楽しい思い出、大切な記憶を奪われてもう何もかも思い出すことが出来ない赤ん坊のような兵士たちに囲まれて、意識もすべて手放す。
やがて完全に瀕死状態と化した時、そこへ老人がやってきて、手当てをして連れ去った。
4年後、右目を除くケガは回復し、若干まだ包帯は取れていないものの
死は免れたソーサラーは、命の恩人である放浪商人とともにいた。
「星を眺めることの好きなおまえさんは、まだ名前を教えてくれないのかな?」
ソーサラーはその商人を見てうなづく。
放浪の商人はサイト・シーイングという名のもうすぐ七十代になるご老体だが、歳の割りに元気で若々しい。放浪癖があり、何処かへ旅をすることが好きだそうで、そのおかげで鉱山のてっぺんで倒れていたソーサラーを見つけたらしい。
「本名を教えてくれないとは…いささか不便だが、人嫌いのお前さんには丁度いいかもしれないがね」
「放って置いてください。ソーサラーと呼んでくだされば結構ですよ」
ぷいとそっぽを向いて再び夜空を眺める。ここは星の庭園と呼ばれる、カメルリング王国傍の小高い丘だ。星を見て溜息をつく。
サイトと旅しながら愛弟子達を探して早4年だが、彼らの安否はわからない。
自分だけ助かってしまったのではないかと、不安に駆られる。
今日もまた、弟子を探して商人と共に放浪するのだった。