複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.184 )
日時: 2013/08/15 17:47
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: aTTiVxvD)

017 ミカイロウィッチ帝国ルート


「あのー、もう一回この作戦について教えてくれませんか?」
樹海の中を歩いていく仲間の後を追って、エディが慌てて声をかける。
皆こんな薄気味悪い森の中だというのに、何食わぬ顔をして進んでいく。灯りはゼルフの持つ錆び付いたカンテラのみだ。ソレが消えたらどうしようとか思わないらしい。
「カメルリング王国の王都にある修道院に忍び込み、王女フランチェスカの魔力のほどを見てくる。ついでに王国の戦力も調べてくる・・・だったな」
「あの、その、王都にまで進入しちゃってばれないんでしょうか?」
さらりと言うヴィトリアルに、エディは少々緊張感が足りないのではないかと不安になってたずねる。
「だって王女の守りは堅いんじゃないですか?それに、国の勢力を調べるって言うと王城に忍び込まなくちゃいけないし・・・」
捕まって処刑されるシーンしか脳裏に思い浮かばないエディは、今から胃が痛くなる。いつもあっけらかんとしている自分がこれほど不安に刈られるとは、ますます不安になる。
だがヴィトリアルが笑いながら言う。「城に忍び込むのは結構簡単なんだぞ?俺なんて酔っ払った勢いで城に忍び込んだことがある。問題は出るときだな」
二人で城に入ったら、もう一人は出られないと思え、そう言ったヴィトリアルはそれ以降無言になった。
もともと無口なゼルフ、貴族出身でこんな仕事させられていることに腹を立てているシフォン、アーリィも船酔いで黙っているので、誰も声を上げない。
仕方が無いので、エディも黙々と樹海をすすむ。

樹海はかなり広大であり、眠くて挫折しそうになるが置いていかれたら最後、抜け出せないだろう。
エディは歯を食いしばって睡魔に耐え、仲間に追いつく。
アーリィは小さな体躯をしているというのに、一向に疲れた様子を見せない。凄まじい人だ。

やがて樹海を抜けると、なだらかな平原が見えてくる。星がきらきらと美しく輝いており、星の海のようだ。
平原は夜風に吹かれてさわさわと心地よい音を発しており、そのまま野原に飛び込んで眠りたい気分である。
するとその平原の一角に、木の枠に囲まれた野原に羊が沢山いた。真っ白のふわふわした毛を持つ大量の羊が身を伏せてすやすやと眠っている。
「あっ羊!すごい羊!はじめてみた!」
その光景にエディは絶叫を上げ、そのかわいらしさに思わず柵に駆け寄る。そして近場の羊に触れようと手を伸ばした瞬間—
「なな、なんだ?!」幼い悲鳴と共に、羊の傍らで寝そべっていた小さな少年が慌てて飛び起きて包丁を構えた。
その涙目で慌てる少年はエディよりも数歳年下であり、羊の番をしていたのだろう。
誰が襲ってくるわけでもないからのんびりしてよーっと、とでも思って完全に安心していたのだろう、武者震いというよりは不測の事態に震えている。
包丁を構えた灰髪の少年は、黒い目に涙を溜めて叫ぶ。
「お、俺の、羊に手を出すな・・・!さ、刺すぞ?!」
「何をしている、民家に迷惑かけるな」
包丁を向けられて両手を挙げていると、ゼルフがあきれたようにこちらにやってくる。
ゼルフの姿を見ると、その少年は顔をしかめて後ずさる。そして草むらに包丁を放り投げると、ソレよりも数倍威力が上の大きな肉切り包丁を構える。
どうやらこの少年は、キッチンにある包丁の類を武器として使用する人らしい。珍しい人種だ・・・。
エディが目を見開いていると、ゼルフがエディを連れ出しながら包丁少年に謝る。
「すまないな、俺達は別に羊にもお前にも悪影響を与えようと思ってきたわけじゃない。先を急ぐので失礼」
「・・・・・・?」
包丁少年は包丁を下ろすと、訝しがるように去って行く彼らの背中を見つめた。
見れば見るほど奇妙な人物で、包丁少年は夢でも見たのかなぁと首を傾げた。