複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照四桁ありがとうございます! ( No.239 )
- 日時: 2013/08/25 19:51
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: V8vi7l6T)
028 ミカイロウィッチ帝国ルート
仲間全員が逃げたことを確認すると、ゼルフはうめく少年の襟首をつかみ、背後を見つめた。
黒い瞳に反射するのは、雄たけびを上げて我先にとかけてくる人々の影。暗闇に足音が妙に響いている。
「ちっ、魔法剣だけもらってくか」
ゼルフは少年から剣を奪い取ると、小さなナイフにも手を伸ばす。
「や、めろ—」
少年がうめいてゴホゴホと咳き込むが、ゼルフはその手からナイフをもぎ取る。
本当は貴重な人材としてこの少年も連れて行きたいのだが、追手が多すぎるのと時間を無駄にしすぎた。
剣とナイフを片手にそのままきびすを返して走ろうとした瞬間—
—「待ちなさい」と辛辣な声が耳を焼いた。
不意に前方から七頸が放たれ、ゼルフはすばやく黒剣で弾き飛ばした。
足元に転がる七頸——否、暗殺に使う暗器がきらりと光る。
「暗殺者か?」
辺りを見回しながらゼルフは警戒したように殺気立つ。
気配がするのだが、闇にまぎれているため、何人に奇襲されているのかわからない。
相当なプロと見込んだ。
と、はっきりと前方に一人の気配を感じて、ゼルフは黒い剣を振り上げた。
闇の中、炎に照らされたそのシルエットはあまり大きくない。そいつがのほほんと微笑んで、持っていた薙刀を掲げた。
「 ウィルゴ 」
「くっ!?」
薙刀の少年が微笑んでつぶやくと、ふいに黒剣が鉛のようにおもくなり、地面に突き刺さる。
奪い取った魔法剣たちも、同等、いやそれ以上にずっしりと重い。
「ったぁ!」信じられないと目を見開いていたゼルフに、薙刀が突きつけられる。
それをバックステップで回避したゼルフは、妙に重い剣を抱え、相手を観察した。
冷や汗がたれる。魔術相手では剣豪のゼルフも少々きついものがあった。
暗闇にまぎれるその魔術師(?)は、呑気そうな微笑を湛えたまま、一歩ゼルフへと踏み出す。
その全貌はゼルフよりも背が小さいものの、慣れ親しんだ武器を構え、少し勇ましく見える少年だった。
強い炎に照らされているため、ハイコントラストの今はその瞳の色も髪の色も当てにならないが、ただ唯一目を惹く特徴はマスコットだ。
ベルトに三つ、小さなマスコットをぶら下げている。
意味のわからない魔術をかけられた上に、追手が来るという危機的状況のゼルフは、剣を肩に担ぎ上げすばやく身を翻す。
だが、再び前方より暗殺者のような気配をまとう人影による、暗記の応酬が行く手を阻む。
「 ウィルゴ 」
再び少年が口走ると、肩に担いだ剣がそこだけニュートンの法則に外れたような、桁外れな重さへと変わる。
追手の足音が迫り、ゼルフは魔法剣を奪うのを諦め、それを手放して走った。
黒い剣ひとつくらいは鍛錬を欠かさないゼルフにとって所持して走っても問題はなく、不思議なことに暗殺者も薙刀の少年も追ってこなかった。
「遅かったな」
やっとの思いで集合した仲間たちを見て、団長であるヴィトリアルがほっとしたように手を打ち合わせた。
「情報も手に入ったし、撤収だ。それじゃライヤ、引き続き眺望活動頼んだぜ」
お任せを!と陽気に笑ったライヤに背を向けて、一向はすぐに帰路へとつく。
今回はライヤの提示したルートで、貿易商人の格好をした彼らは傷ついたエディと重さが二倍以上になった剣を荷車につめ、怪しまれることもなく王都を後にした。