複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照二千記念のアンケート実施! ( No.248 )
- 日時: 2013/08/27 18:22
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: V8vi7l6T)
参照二千記念 番外編013 とあるメイドの追走劇
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数日後に舞踏会がある—そう告げられたときリンは、エディの部屋で紅茶を淹れていた。
今は昼、この時間帯ならばいつも屋敷を脱走するエディが、今は大人しくベットの上で伸びていた。
今朝父親である伯爵に舞踏会の存在を知らされてからというもの、その撃沈振りは見るに耐えない。
「い、いいじゃないですか舞踏会!踊ったり食べたり…富裕層の特権ですよ、楽しそうじゃないですか」
リンが苦笑しながら気休めを言うけれど、シーツに顔をうずめて屍のポーズをとるエディは無感情のまま言い返す。
「成り上がりの、だけどねあたしの場合。…それに参加しても楽しくない」
リンはその光景を困ったように眺めながら微笑んだ。
エディことエドウィン・シュナイテッターは商人でありながら伯爵の地位を与えられた父親を持つ、いわゆるお嬢様だ。
帝王に気に入られ、貧しい商人から富裕層へ成り上がったシュナイテッター家は、毎度のこと帝王の娘が開く舞踏会へ参上している。
エディは毎回舞踏会へと引きずられていくことに嫌気が差していた。
リンはというと、そのシュナイテッター家に使えるメイドであり、メイドの内ではエディと最も仲のよい立場だった。
「ということは、ドレスを新調しないといけませんね!すぐに出かけませんと!」
リンが妙に興奮したような声を上げると、シーツから迷惑そうな水色の瞳が見つめてくる。
イヤだ、というような視線を完璧にスルーするとエディをベットから引きずり出し、出かける準備を済ませた。
馬車に搭乗して数分が経過すると、貴族街を下った海辺周辺にやってくる。
にぎやかな市場や、出航していく様々な帆船やボート。海鳥と潮風が辺りに漂う、ミカイロウィッチ帝国の観光名所である。
「どのようなドレスにしましょうか、お嬢様?色はやっぱり水色ですよね?」
洋服の事となると、やはり女性はうきうきしてくるらしい。
馬車の中で楽しげにリンが喋りかけると、エディは目を輝かせながら頷いている。
「そうですよね!瞳の色とドレスの色を合わせるのは—」
あぁお嬢様もなんやかんや言ったって楽しんでる、と嬉しそうなリンだったが…エディはドレスではなく、馬車の外の景色に目を輝かせていたのだ。
「海、いいなぁー…水色がかった青とかとても芸術的で—」
「—水色がかった青ですね!芸術的なドレスって魅力的ですもんね!きっとお嬢様に良く似合うと思います!」
「リンも芸術とはなんぞや、ということを理解しててうれしいな…」
まったくもって違う話題を咬み合わせる、という奇跡的な神業を披露しつつ、二人は仕立て屋にたどりついた。
海鳥の鳴き声と波音をBGMに、仕立て屋は上品に店を開いていた。
オークの木の大きな建物は、何処かの博物館のような大きさがある。
リンが仕立て屋にドレスを見せてもらっている間、エディは退屈そうに店内をふらふらと歩き回っていた。
エディは芸術的なものを愛し、なにより小鳥のように自由を求めて旅に出ることを夢見ている。
旅先で見た美しい世界や物を芸術家になってとどめることが夢…なのだが、目の前のドレスには芸術アンテナが反応しない。
無頓着とは言わないものの、ドレスよりも自然・自由に興味を惹かれる。
はっと気付けば、海辺で寝転んでいる有様だった。
(リン置いてきちゃったけど…まぁいっか)
浜辺で砂も気にせず寝転がり、空と雲のコントラストを目で追う。
時折海鳥が視界を走り、船の汽笛が空気を揺らす。
このままふらっと何処かへ行きたくなる情景に、エディはため息をついた。
「あれ?」
その頃、いくつかのドレスにめぼしをつけたリンがエディの意見を聞こうと店内を見回すが、いないことに気付く。
リンは茶色の瞳を見開いたまま、店内を走り回るのだが…やはりいない。
なにやってるんですか、という仕立て屋の視線を受けて、リンは落ち着こうと勤める。
「お嬢様が消えた…ゆゆ、誘拐…?それとも他のドレスを見にいったのかな…どうしようどうしよう」
あたふたとするリンを眺めていた仕立て屋の主人は、その呟きを聞いて、そういえば…と口を開いた。
「最近妙な輩を見たって言う噂が流れてるんだよなぁ」
「えっ、どんなですか!?誘拐とか!?」
何でもいい教えてくださいっとものすごい剣幕で迫るリンを、まぁまぁとなだめて主人は言う。
「怪我をした人や病気の人を無償で手当するとかなんとか言って拉致しようとする、白衣を着た妙な少年が出没するとか…不良がある少女をナンパしようとしたら兄らしき人物に半殺しにされたとか…金髪の小さな幼女の邪魔をした人が姿を消したとか…バンダナをした人とすれ違うと身に付けている装飾品がなくなるとか—」
「…うそ臭いですね、私先を急ぐので。では」
いや本当ですって、嘘じゃないですよ!という店主の叫びを背に、リンは様々な店へとエディを探して走った。