複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2000ありがとう御座います! ( No.260 )
日時: 2013/08/29 12:16
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: V8vi7l6T)

参照二千記念 番外編016 とあるメイドの追走劇
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「・・・・・・あ」
リンと白衣少年はお互い無言で視線を交えていたが、白衣少年の姿を見るとすぐに抱いていた白猫が腕から飛び出した。
マリのように飛び跳ねる白ネコは白衣少年の足元までやってくると、なれなれしい様子でニャーと鳴く。
”ご飯まだー?”というような飼い主に対する鳴き方ではなく、”おー、また会ったな”というような鳴き方である。
そして”ちょっと待ってろ”というように白猫が物陰へと走り、何かを口にくわえて戻ってきた。
猫には大きいが人には小さい青魚を白衣少年の目の前に落とすと、なにやら先輩風を吹かせて”ほら食え”というように鳴く。
・・・どうやらこの猫、白い姿に青と黄色のオッドアイという情報だけを頼りに、白衣少年に同族意識を持っているらしかった。

(猫に貢がせている・・・)
白衣少年が無言で青魚を指でつついている光景を見て、リンは衝撃的なものを見たというように目を見開いていた。
はいはい、だけど今度魚持ってくるときは解剖できるような珍しい魚をだね・・・などともう猫と慣れ親しんでいる少年を見て、リンは首をかしげた。
(この少年は・・・猫と仲のいい魚類学者?猫を手なずけて魚を調達しているのかな?)
どこからどう見ても”怪我をした人や病気の人を無償で手当するとかなんとか言って拉致しようとする、白衣を着た妙な少年”には見えない。
普通の”魚類学者の弟子っぽい風貌の、白猫みたいな少年”にしか見えないので、リンは自分が見当違いだったとうなだれた。
そして白猫と戯れる—というか、またこの猫か、というようにうんざり相手をしている少年の邪魔をしないようにそこからこっそり立ち去った。
そしてエディの行方を必死に考えていたため、白衣少年が「あーあ、実験素材がどこか行っちゃった。折角新しい薬開発したのに」とつぶやいたのを聞く事はなかった。

「お嬢様どこ行っちゃったんだろう?一端、仕立て屋に戻ろうかな」
路地から抜けると、市場通りだった。このにぎやかな市場を抜けた先に、仕立て屋がある。
人ごみでごった返すにぎやかすぎるその市場へ、リンは歩き出した。
するとふと通り過ぎた人が「あれ、ポケットに指輪が入ってるや・・・」と何かおかしそうに微笑むような声で独り言をつぶやいた。
「?」と頭上にクエスチョンマークを浮かべて振り返ろうとしたとき、前方で一人の貴族のような目立つ衣装を若者が焦ったように辺りを見回しているのが目に留まった。
どうやら傍にいる婚約者と思しき貴族娘に何かプレゼントを贈ろうと思っていたのだろうか、貴族娘が腕を組んでまだ?とまごついている。
「指輪のケースはあるのに、なんでないんだぁ?」
「落っことすような小さな指輪をプレゼントするなんて、見損ないました。せめて5カラットはないと結婚なんてありえません」
貴族娘はふてぶてしい態度で愛想が尽きたという表情を浮かべて立ち去り、焦って貴族男がその後を追いかけていく。

更に進むと、アイスクリーム屋台が出ており、リンは目を輝かせた。
アイスクリームはリンの大好物であり、むしろミカイロウィッチ帝国生まれのものにアイスクリームを嫌いなものはいない。
「お嬢様を見つけたら一緒に食べよ・・・ん?」
わくわくしながら手を合わせてつぶやくと、人ごみが徐々に割れ、担架を担ぐ人々が早歩きで目の前を通り過ぎる。
担架に寝転がるその人に見覚えがあり、だが別にその人に興味がないので声をかけずに見送るリン。
別に彼女が心無い人だと言うわけではなく、その担架に寝転ぶ人は有名なナンパ師であり、リンもしつこく声をかけられた被害者の一人である。
大方、仕立て屋の主人の噂に出ていた、”少女をナンパしようとしたら兄らしき人物に半殺しにされた”とかいうアレだろう。
人々の噂話を移動中に耳に挟み、大体概容が見えてくる。
ナンパ師がしつこく少女に声をかけ、兄らしき人物が微笑みながら剣を抜いたことに驚き、そのまま逃げようとして転び、顔面を強打して気絶したというらしい。
なんと情けない。

「あ、お嬢様!しかもアイスを食べていらっしゃる!?」
市場を駆け足で抜けて仕立て屋まで走ったリンは、その入り口でアイスを食べながらこちらを呑気そうに見るエディを発見した。
「ご無事で何よりです!」
「それよりリン、ドレスのなんかは出来たの?」
そうでした、とリンは仕立て屋の中へエディを連れて行く。
適当でいいよと言うエディの言葉に、リンはとりあえず自分好みで選んだドレスを貰おうとするのだが、今度は主人がいない。
数十分前、ドレスを見ていた金髪の少女に、君にはまだ早いよと声をかけてそのまま行方をくらませた主人は、現在も見つかっていない。




とあるメイドの追走劇おわり—え?この番外編の属性?・・・もちろんカオスですがなにかw