複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2000ありがとう御座います! ( No.274 )
日時: 2013/08/31 16:18
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: V8vi7l6T)

参照二千記念 番外編021 傭兵の黒と従者の白
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蹴りをもろに喰らったラルスは何が起こったかまったく覚えていないと言うように、大の字に寝転がっていた。
(あれ・・・?俺は何してたんだっけ・・・?)
先ほどまで神経をすり減らす剣と剣の激しいやり取りをしていたのに、突然格闘技が炸裂して吹っ飛ばされた—という夢を見たのか?
すると頭上から声が降り、ラルスの耳に声を届ける。

「いつも思うが、その格闘技は一体どこで—」
「い、いいからゼルフは剣ひろってて!」
「あぁー、死ぬかと思ったよ、終わってよかったぁ」

(・・・・夢じゃ、なかったみたいだ)
むくりと起き上がったラルスはすかさず首元に剣がつきつけられたので、動きを止めた。
目だけでそいつを見ると、深緑を思わせる髪の少女がラルスの喉に針のように尖ったレイピアを突きつけているのが見えた。
野盗に負けて、これから殺されるのだろうか?そう思うと盗賊に殺されていった人々と剣の師に猛烈に謝罪したい気分になる。
「あなた、勘違いしてるでしょ。私たちは野盗じゃないわ」
「何を言ってるんだ、だったらあの荷車はどう・・・」
そこでラルスは黙り込んで荷車を凝視した。
荷車に積んである人々の財産と、戦闘不能状態の明らかに悪人面の人々がちょこんとそこに座っている。
なに、あれ?何やってるの?と思わず口走りそうになったラルスに、少女がレイピアを握る手を緩めずに言う。
「あそこにいるやつらが生け捕りにした盗賊団よ。後のは私たちが・・・始末した。今から王国に盗まれたものを返しに行こうとしていた所だったのよ」
戦闘不能だが意識のある盗賊が、ラルスから視線をそらした。財産や盗賊に混じって、そこに見覚えのある二つのサーベルを発見し、ラルスは思わず立ち上がろうとして、少女に強く怒鳴られる。
だがサーベルを見せてくれと頼むと、黒剣の少年が二つのサーベルを持って近寄り、まだ戦い足りないと言う顔でこちらを見る。
ラルスもそれは同感だったが、今はサーベルに意識を集中させねばならない。
「間違いない・・・このサーベルを持ったやつが、野盗のボスだった」
「そいつら二人も・・・俺達が・・・」
ラルスが信じられないと首を振りながら言うと、ロバを撫でていたこの中では最年少であろうクールそうな風貌の少年が、不意にその笑顔を崩してかすれた声でつぶやく。
「遺体なら十分も行かないところにあるわ。私たちは傭兵になりたくて名声を得ようと思って盗賊団を退治したの」
”始末”から”退治”に言葉を変えた緑の髪の少女が見にいく?と提案するが、ラルスは首を振った。
第一、彼らが盗賊団ならばラルスをすでに始末しているはずである。
「わかったよ、あなたたちは盗賊団じゃないんだね・・・間違ってすまなかったね。お詫びと言っちゃなんだけど、俺の住む城にあなた達を招待するよ」


「あぁ、ラルスの師の騎士が、城に住んでるのね」
ロバと併歩しながら、四人は年代が近いということもあってすぐに打ち解けたような空気を辺りに漂わせていた。
「あなた達は手柄を立てたからね、きっと国王と面会できると思うよ。運がよければ、王女様を見ることが出来るかもしれないね」
王女?と首を傾げるミレアに、ラルスは頷いた。もっぱら会話しているのはミレアとラルスであり、ゼルフとジョレスは黙々とロバを従えて進んでいる。
「うん、今年で13歳になったフランチェスカ様で、近々修道院に移り住むことになるんだ。修道院に入ると、もう滅多な事じゃ会えないから、これが最後のチャンスかもね」
「最後のチャンス・・・ねぇ。別に皇女とアエナクテもいいと思うけど」
ミレアが不思議そうに首を傾げる中、一目見たら意見が変わると思うなぁとラルスは笑うだけだった。


王国への道のりは長く、のろまなロバのせいもあって一週間近くかかってやっと王都へ入った。
復興作業が続く町並みに、人々の笑顔がまぶしい。
失ったものも多かったが、笑顔でいようとするけなげな人々の姿に胸を打たれる。
「さぁ、王城へ急ごう!」
ラルスはその景色を目に焼き付けるように眺める三人に声をかけて、導くように王都の中心、ひときわ目立つ城へと歩きだした。