複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2000ありがとう御座います! ( No.286 )
- 日時: 2013/09/04 19:04
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: V8vi7l6T)
031 カメルリング王国ルート
「あ、目を覚ました!目を覚ましたよユニートさん!」
ルークがその黒い瞳を何度か瞬きをして意識を取り戻すと、聞いたことのない声が嬉しそうに叫ぶのが聞こえた。
(・・・ここは?)
寝転がった状態で首をめぐらせ状況把握すると、何処かの屋内でベットに寝かされている様だった。
上体を起こすと腹部に鈍い痛みが走り、うっとうめき声を上げる。
(何で痛いんだ?確か・・・確か・・・)
腹部を撫でながらルークが必死に考えていると、いたわるように少年が声をかけてくる。
「どこか痛むの?」
薄紫色の髪に紅色の瞳の、どこか柔らかい雰囲気のある少年は小首を傾げて心配そうにルークを覗き込む。
誰だろうこの人、と思っているが、どうやら危害を加えるような人ではないらしい。
大丈夫です、とつぶやくと、少年は安堵したように微笑んだ。
そんな少年を観察しながら、ルークは一人語ちた。
(医者?・・・には見えないけど。薙刀かついでるし)
するとその少年が出入り口の方向につかつかと歩み寄り、声をかける。
身体を起こしたことによって出入り口付近においてある椅子に、ユニートが本を抱えて寝ているのが見えた。
その肩を遠慮なくがくがく揺らしながら、紫色の髪の少年は声をかけ続ける。
「ユニートさん起きましたよ、だから起きてください!」
「わ、わかったからやめなさいってシラン君」
ようやく起きたユニートがシランと呼ばれる少年を制止し、ちょっと不機嫌そうにずれたメガネの位置を正す。
目が悪いものにとってメガネは命である。その黒縁の奥から赤茶色の目がルークを捕らえ、命に別状が無いことを改めて確認した様だった。
「あのユニートさん、僕は何でここに・・・?」
記憶がないわけではなかったが、混乱していて良くわからない。ここは自分で考えるより、すべてを知っている人物から状況を聞いたほうがよい。
「修道院の前で黒い剣の男と戦ったことは覚えているか?」
「はい・・・」か細く返事すると、記憶が徐々に縫い合わされてひとつの形をかたどり始めてゆく。
「今はそれから3〜4時間たった後だよ。もう日付が変わって、早朝だ」
噛んで含める様なユニートの言葉に、ルークは一つ一つ記憶を整理していく。
黒い剣の男と戦ったこと、そいつに腹部を柄で殴られたこと、フランベルジュと果物ナイフを奪われてから気絶したこと・・・
でも何か、忘れているような気がする。なんだろう思い出せない。
大きな布にひとつ、ぽっかりと穴が開いたような・・・
ルークが首をひねっていると、ユニートが口を開いた。
「魔法剣は二つとも無事だから安心するといい。ただ盗賊団には逃げられたけどね」
言いながら、その紫のフロックコートから一振りの果物ナイフを取り出してみせる。
「よかった、身に付けてないとなんだか不安で」
ありがとう御座います、と微笑みながら両手を差し出すが、ユニートは返す素振りを見せない。
何かを懸念しているようで、返すことを躊躇っているようだ。
「ルーク君、君は・・・」
そして重々しく口を開くが、その言葉をシランがさえぎってルークの首元を指差した。
「あ—れ、襟元に血がついてるよ?おかしいな、怪我してないと思ったんだけど」
ルークは反射的に襟首をつかみ、目元まで引っ張り上げた。放牧衣装の襟元に、跳ねたような血のあとが付着している。
その血液を脅迫されたような顔をして見つめたルークは、ぽっかりと開いた記憶の穴がふさがっていくような感覚を覚えた。
ポニーテールの似非シスター。彼女に忍び寄って、思い切りナイフを振り上げたあの記憶。
「僕は、そのナイフで・・・人を、刺したんですか」
けして致命的な怪我ではないだろうが、はじめて人を、この手で刺した。
狼とか獣とかを退治したときとは違う、嫌な汗が背中を伝う。その青ざめて今にもはきそうな顔をするルークの手に、ユニートはナイフを握らせると、見下したように目を光らせた。
「騎士志望が、今更そんなことでうろたえるなんて馬鹿馬鹿しい。今回の賊の侵入で、冷戦は破られたも同然なんですよ」
え?と顔を上げたルークに、シランがベルトについているマスコットを指で撫でながら言う。
「今回王女を奇襲した輩は帝国の賊なんだ。それも、帝国の皇族に仕える者たちが襲って来たらしい。あの中に皇帝に仕える黒騎士がいたって、王国の白騎士のラルスさんが証言したんだ」
でもそれだけじゃ核心を突いていないのでは?とルークが眉を寄せていると、ユニートが腰に手を当てて、嘆かわしいと言うようにメガネをくいと上げる。
「密偵の情報にも彼らが帝国の者で、帝国のシェリル皇女の差し金だと報告されていましてね。今回彼らは王国の軍事力を調べに来たと・・・近々戦争が再発するでしょうね」
戦争が再発する、と聞いてルークはのどを鳴らした。
平和が失われる、そう聞いて喜ぶ奴は居ないだろう。面食らったルークは無言でナイフを握り締めた。