複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2500ありがとう御座います! ( No.309 )
- 日時: 2013/09/17 19:45
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: 7fbL/SBO)
033 ミカイロウィッチ帝国ルート
三時間後、海に夕日が沈む頃、盗賊団+騎士はミカイロウィッチの王宮へと続く水路に到着した。
石造りのじめっとした苔むす水路は朝晩関係なく真っ暗であり、ドーム上の壁にカンテラが掛かっている。
「さっさと皇女のところに行くぞ」
船が波止場に着き、乗組員達が船の手入れをし始めると、ゼルフが鞘に入れた黒剣を重たそうに肩に担ぎ、通路へ飛び降りた。
続いてシフォンも飛び降り、続々と後に続いていく。
水路から王宮内へと続く階段を登りきると、両開きの扉がある。それを押し開ければ、すぐに華やかな光景へと様変わりした。
ガラス張りの廊下を進んでいくと、薄暗い町がガラス越しに見える。人々を見下ろすように建設されているこの王宮は敵国の侵入にいち早く気付けるような展望台でもある。
王宮の中心部へ近づくと、盗賊団+騎士の帰還を知ってか騎士達が出迎えをし、案内するように彼らをいざなう。
そしてたどりついた場所は皇女の部屋ではなく、現帝王の鎮座する玉座の間だった。
玉座の間には帝王と皇女しかおらず、入り口まで着いてきた騎士も室内には入らなかった。
金の玉座に腰掛ける帝王と、その隣で腰掛ける皇女シェリル。双方に見つめられ、盗賊団+騎士はそろってお辞儀する。
エディは成り上がりとはいえ伯爵の娘なので、このような作法は慣れていた。
「良くぞ帰還した。怪我人は手当てを、残りは報告をせよ」
「報告は俺やるから、後はツヴァイのとこ行って手当てしてもらえ」
帝王の言葉に、お辞儀をしたままヴィトリアルが部下達につぶやき、皆そろって頷いた。
それでは、とヴィトリアルを残して4人が退室すると、帝王が眉をしかめる。精鋭とまでは行かないが、五分の四が負傷したという事実は芳しくない。
冷め切ったような帝王の視線を真に受けるが、ヴィトリアルは対してかしこまることもせず、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「あー、やっと帰ってきたの?」
盗賊団の居座っているあじともとい拷問部屋の奥につくと、ソファに寝転がったツヴァイと、奇怪な色をしたケーキをほおばるイヴとクウヤが出迎えてくれた。
「おかえり・・・エディ。食べる?」
にっこり笑ったイヴはフォークに突き刺した真っ赤なケーキを薦めてくる。また面白い着色料でも見つけたのだろうか、黒いマフィンの悪夢が蘇る。
そんなイヴの隣で胡坐をかいたクウヤの、もちろん喰うよな?だってイヴが作ったケーキだもんな?という殺意のこもった笑顔を前にして、断ることが出来ない。
「あ、はい・・・いただきます」
銀色のフォークに突き刺さるケーキは、生地・クリーム・イチゴと総て真っ赤だが通常の味がした・・・だが見た目がよろしくない。
おいしかったよ、とつぶやくエディを押しのけてアーリィが口を開く。
「アンタたち、コレ解ける?物質を重くする系の術をアンタたち確か使えなかったっけ?」
アーリィの傍にゼルフが黒剣を引きずるようにもち、じっと二人を眺める。
アーリィの言葉にイヴとクウヤは顔を見合わせ、クウヤが口を開く。
「え・・・? 土の部屋第6室 ウィルゴ ?」
「あぁ、そのウィルゴという言葉をかけられて剣が急激に重くなった」
ゼルフがクウヤの言葉に頷くと、イヴがケーキの乗った皿をひっくり返した。膝元に真っ赤なケーキが散らばり、なんだか、殺人現場のようになった。
だがイヴは目を見開いて、取り乱したように兄の服の裾をつかんで叫ぶ。
「え、嘘、それって兄さん!?師匠かな、シランかな!?」
「なぁあんた、そいつの特徴は?右目に包帯を巻いてたか?それとも紫色の髪の?むしろどこで会ったんだ?」
すごい剣幕でたずねられ、ゼルフは目をしばたいたが、目を細めて記憶をたどる。
「確か、薙刀を背中に背負っていたな。俺よりも背の小さい小僧だ。包帯はしていなかったが、王都の中で出合った上に邪魔をしてきたから明らかに帝国の敵だろうな」
そう簡単に教えると、イヴとクウヤは顔をゆがませた。
クウヤが小さな声で第6室解除、とつぶやくと黒剣は通常の重さに戻った。
だが幻術師の兄妹は何か痛みに耐えるような顔をしており、喜ぶに喜べない状況に、ゼルフは無言で剣をベルトに取り付けた。
その場にいた兄妹以外の人物はなぜこの幻術師兄妹が戦慄を受けたのかわからず、おどおどとアイコンタクトを取るが、現状理解できているものは居ない。
するとイヴが口を開いた。
「兄さん・・・シランだよね。・・・王国に行ってたんだね。師匠も一緒なのかな・・・?二人とも敵になっちゃったの?」
クウヤは黙ったままイヴのことを眺めていたが、立ち上がり、イヴをつれて部屋から出ていた。
扉の奥に消える間際、クウヤがつぶやいた言葉をエディは聞き取ることができた。
「やっと見つけたのにこんなことって・・・」
幻術師たちは波乱万丈・・・