複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2500ありがとう御座います! ( No.317 )
- 日時: 2013/09/21 17:33
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: 7fbL/SBO)
036 カメルリング王国ルート
「おぉ・・・これが図書館・・・?」
城の中心部、昼夜関係なく陽の光が当たらない部屋に案内されて、ルークはちょっと意外そうに声を上げた。
窓のない長方形の広い部屋は、壁に取り付けられたカンテラが唯一の光源であり、やや薄暗い。部屋の隅々まで本棚があるが、ほとんどの棚がただほこりをかぶるだけで、肝心の本が並べられていない。
想像では陽の光が沢山入り、天井までつくほど高い本棚と、床にまで積み上げられた本の山—それが図書館だと思っていたのだが・・・。
「あんまり本ないですね。それにちょっと暗くありません?」
ルークがユニートのほうを向いて感想を述べると、彼は肩をすくめる。
「仕方がないよ、魔術のことが記された書物はこの国よりも古い歴史を持ってる。コレだけ集められただけでも奇跡と思ってもいい。それにこの部屋が暗いのは—」
突然、うーんと誰かがうめいて、部屋に数個ある机と椅子の間から身体を起こした。
真っ白の、影。いや、全体が光を放つような、真っ白の人影がゆらりと動いてこちらを見つめた。
「部屋が暗いのは彼女、カルマが居るからだよ」
「なんだ、客人か?仕方あるまい、もう起きねば」
白い人影がゆらゆらとこちらに向かって歩いてくる。
カルマ・ファウストゥス、国王の面会を断った勇気ある人。研究室に閉じこもっていると聞いていた。
ここにある書物は魔術に関連するものなので、彼らにとってこの図書室は研究所なのだろう。
それよりも、ルークは黒い目を見開いて彼女を見つめた。
思ったよりも小さな、言葉遣いの割りに若い少女が不思議でしょうがない。
真っ白の、およそ病人でもこんな白くはならないだろうという雪のような肌を持ち、ゆるくカールした髪も、長い睫毛も白い鳩の産毛のようだった。身に付けているカチューシャも学者服も真っ白なのだが、ただひとつ、その目だけが赤く色づいている。
雪の上に血をたらしたようなその目が、じっとルークを見上げる。
ルークの衝撃を受けたような目をみても対して気にもしないように、年よりめいた口調でたずねる。
「アルビノは珍しいか?」
「え、え?アルビノ?」
好奇な目で見てしまった上に、知らない単語が出てきてルークが戸惑って口ごもると、カルマはあきれたようにうめく。
「なに?そんなことも知らんのか、まったく・・・アルビノというのはだね、先天的にメラニン色素が欠如する遺伝子を持つ固体主のことなのだよ。主にアルビノが持つメラニン色素は青と黄色。黒がないために、このような白い色となるのだ」
はぁ・・・?、とあいまいに頷くとカルマは続ける。
おそらくルークが理解していないことを分かってはいないようだが、彼女自身の学術的興味に火がついてしまったらしい。
「そしてこの眼だが、もともとアルビノの虹彩の色は透明。だが、瞳の奥の血管の色により、赤く見えるのだ。良く見てみろ、瞳孔も黒ではなく赤だろう?ほとんどの場合視力が弱いとされるが、私は幸いなことに両目とも一般人と同じほど見ることが出来る」
「そ、それはよかったです、ね・・・」
この女の子は僕よりも年下なのに、完全に頭の出来が違うのではないか、と思いながら相槌を打つが、カルマはあきれたように首を振る。
「君はちゃんと話を聞いていたのかい、アルビノはメラニン色素が欠如しているんだよ。よって太陽光に含まれる紫外線、すなわち太陽光スペクトルの一番右側に位置する紫色を浴びると皮膚に異常を来たし、死んでしまうのだよ」
「あ、えっと、ごめんなさい。そうか、だからこの部屋に窓がなくて、ずっと研究所に居るんだ・・・」
ルークが慌てて言うと彼女は、ふと悲しそうな顔をしてつぶやく。
「日の光を避けて暮らすために引きこもっているだけではない。この容姿だから、人々は私を殺そうとするのだ」
「え、殺す?殺すってどういうことですか」
アルビノについての講義が終わった途端この話題なので、ルークはわけがわからないとユニートたちを見ようとするが、彼らはさっさと本棚の方へ移動していた。
アルビノ講義の件からすでに避難していたらしい。王女までもが椅子にきちんと腰をかけて本のページをめくっていた。
彼らのすばやさに驚愕していると、カルマが口を開いた。
「アルビノ狩りというものを存じているか?宗教的に我々アルビノは神への供物なのだそうだ。我々を殺し、その体のパーツを売るものも居る。お守りなのだそうだ。一方で、日の光を避ける生き方と赤い目のおかげで、吸血鬼と勘違いするものも居る。杭を持って追いかけられたことは何度もあるのだよ。私が魔術師でなければ、とっくに殺されていた」
「そんな・・・」
齢14にして人々に明確な殺意を持って追われてきた少女。アルビノというだけで命を狙われた彼女は、久しぶりに人と話せてよかったと満足そうに笑った。
アルビノ狩りは実在します
神様への供物、お守り、災いの象徴として殺されてます