複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2500ありがとう御座います! ( No.321 )
- 日時: 2013/09/28 14:54
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: DnkSJHRl)
038 カメルリング王国ルート
爽やかな風が巻き起こって木々を優しく揺らすと、目の前の惨劇は浮世絵離れする。
白亜の美しき修道院はもう跡形もなく、今はすすで黒ずんだ瓦礫が無造作に散らばり、かすかに残った建物の景色に異色の雰囲気を与えている。
黙ってその中を歩いていくと、かつて自分がそこで祈りをささげていた巨大な十字架を見つけ、キリエ牧師は悲しげに天を仰いだ。
「主よ…貴方は…」
本当にいらっしゃるのですか?とつぶやいたのだが、声がかすれて語尾が消えてしまった。
今まで散々神に祈り、世界の平和とやがて来る真の世界平和を想像して満足していた。彼の信仰する宗教は、神がやがて真の正しい世界を運んでくる、それまで清く正しい心でいろというものだった。
信仰の厚いキリエはそれを忠実に守り、そうすることで世界が救われるとそう信じていた。
だが——、この有様は一体?
ぐるりと辺りを見回して、キリエは絶望する。神に祈って、幸せを願い、平和を思って、新世界を夢見た。
そうやってのうのうと暮らしてきた結果により、修道院は破壊され、一ヵ月後には戦争が再来する。平和は来ない。
白い十字架の前で傅いて、神は我々を試していると思うこともできたが、それはおろかな行為だとキリエはうすうす感づいていた。
「主よ、あなたはどこに・・・?」
そうつぶやきながら、自分から信仰心が零れ落ちるのを感じて、キリエは白い十字架から目をそらした。
十字架の向こうには奇跡的に焼け残った王女の愛した庭園があり、リグ僧侶がそこに座っているのが見えた。
白いメンヒルは爆風で倒壊したようで、その白い柱に腰掛けていた。
リグ僧侶は異端の神を信仰しているので、十字架がこっぱ微塵になろうが関係ないという顔をしていたが、やはり何年間かここに住んでいたので多少なりとも心を痛めていたようだ。
「ここは気に入っていたんですがね・・・」
庭園に近づくと、リグ僧侶がキリエに気付いて声をかけた。私もです、と絶望的な声を上げると、リグ僧侶はなんともいえない顔をした。
そして絶望的な顔をして意気消沈したキリエに、白い布にくるまれた棒状のものを差し出した。
「あなたが探している主は、コレじゃないですか?」
「私の探している主?」
首を傾げながらそれを受け取ったキリエは、ゆっくりと布をめくる。十字架か何かを想像していたキリエは、その正体が現れると絶句した。
「ここに来たのは修道院を懐かしむためではないでしょう?コレを、探しに来ていたのではないですか?」
キリエは黙って差し出された剣を見つめた。
修道院の者達だけ所持することを許された慈悲の剣、ミセリコルデ。聖水と祝福を受けた剣は、人を殺すときに痛みを与えず一撃で殺すことが出来る剣であり、もともとは自殺を許されない教徒の者が死を望むときに使うものだった。
「コレでどうしろというんですか」
「さぁ、それはあなたしだいでしょうね。これ以上ここに居ると瓦礫に躓いて怪我をするかもしれないうえに、風邪を引くかもしれないので私は帰ります」
キリエの言葉にリグ僧侶は肩をすくめるだけで、さっさと瓦礫の中を歩いていく。
キリエはしばらくその後姿を眺めていたが、受け取ったミセリコルデを眺め、リグ僧侶がやったように白い柱に腰掛けた。
そしてじっくりと考え、雲を眺め、足元で風を受けて凪ぐ少し焦げ付いた芝生の感触を確かめて、沢山ある答えからひとつを選び出した。
そしてなんとなく独り言をつぶやいた。
「リグレット僧侶、あなたの信仰する神とは一体どんな者なのでしょうね?」