複雑・ファジー小説

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2800ありがとう御座います! ( No.329 )
日時: 2013/10/12 13:16
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: sZWqKe5e)

036 ミカイロウィッチ帝国ルート



シュナイテッター伯爵の家にて、リンはマフィンを焼きながらぼうっとしていた。エディが王女に連れ去られてからその消息は依然つかめず、頼みの綱だったゼルフも姿を消していた。
(ゼルフは剣の舞にも出なかったし、宮殿のメイド知り合いに声をかけてみたけどお嬢様の行方は誰も知らないっていうし・・・どうしたら・・・)
オーブンが熱を失っていき、リンは焼きあがったマフィンを皿に取り分けてため息をついた。
いつエディが帰ってきてもマフィンが出せるように毎日この作業を続けているが、皿に乗ったマフィンはエディの帰りを待ち続け、冷め切った頃にリンによって消化されていく。
今日もまた一人でマフィンを食べるのか、とため息をついたリンの耳にノックの音が聞こえた。
「お嬢様?!」
叫びながら猛スピードでリンがドアに駆けつけ血相を変えて扉を開くと、ちょっと驚いたような顔をしてそこに立つゼルフが居た。
 「ゼルフ、お嬢様を知らない?皇女様にどこかに連れて行かれちゃったの」
開口一番にリンはそう叫んだ。本来なら私をほったらかしてどこ行ってたの?とかどうして剣の舞をサボったの?とかいろいろ言うはずの場面だったのだが、今のリンの最優先順位はエディだった。
「黒騎士のあなたなら何か知っているんじゃない?」
リンに詰め寄られてゼルフは不思議そうな顔をしてつぶやく。
「エドウィン・シュナイテッターの居場所は確かに知っていが・・・皇女に連れ去られてたのか?俺が見る限り、別に任務中でも逃げるような素振りは—」
だがそこまで言うと、リンの目に確かな怒りの色が感じ取れ、ゼルフは黙った。何かまずいこと言ったか?と頭をめぐらせていると、めったに聞くことが出来ないような低い声で、リンがつぶやいた。
「それ、詳しく話してくれる?」

リンはエディが舞踏会の夜に皇女の的撃ちに失敗して連れ去られたことを話し、ゼルフはエディたちと王国を襲撃した話をした。
シュナイテッター邸宅からそれほど遠くない浜辺に座って会話していたゼルフは、ほぼ一週間ぶりに会ったのに何でこんな会話しなくちゃいけないんだ?と思いながら報告していた。
エディが刺されたことやエディに魔術の才能があったことや戦いの様子を端折ることなく総て話すと、リンは急に立ち上がった。
「シュナイテッター伯爵はお嬢様が連れ去られてからというもの、ふさぎこんであんなに大好きだった商談もやめてしまってるの。私もエディお嬢様の居場所がわからなくて生きた心地がしなかった。もしかしてあの皇女に殺されているのかも、拷問されているのかも、と思ってたけど・・・」
「アイツはちゃんと生きてる。魔術師で、弓矢で戦うことも出来てる」
ゼルフがつぶやくと、リンはポケットの中に手を突っ込んで、そこに何かがあるのを確認してからゼルフを見た。
夕焼けが海平線に沈んでいき、空が藍色とオレンジの混ざった不思議な色に染まっている。リンの茶色の瞳がその光を受けて不思議な具合に見えた。
そして口を開く。
「ゼルフ、少しで良いからお嬢様にあわせてくれる?」


物語が3分の1.5〜1.6になり、だんだん沢山の人視点になってきましたね、なんか
コレはこれで楽しいです