複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2800ありがとう御座います! ( No.334 )
- 日時: 2013/10/19 16:01
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: AncojdKV)
038 ミカイロウィッチ帝国ルート
「三日後、ですか」
クウヤの声が響き渡るのは宮殿の最上階、シェリル皇女の部屋。ティーテーブルに座るイヴとクウヤの視線を一身に受けるのは不適に微笑むシェリル。
「あらそれじゃ遅いかしら?」
シェリル皇女が見透かしたように微笑むと、クウヤは首を振った。むしろ遅いくらいだといいたいが、準備もあるため三日という期間が一番ふさわしい。
クウヤが納得したように黙ると、シェリルは満足げに口角を吊り上げて微笑むと、腰に手を当てて扉に手をかけた。
「あなたたちここで待っていて。私は少し人員の確保をしないといけないのよ」
そう上品に笑いながらつぶやいた彼女は、ふとドアノブから手を下ろし、半歩下がった。
「・・・?」
皇女様はどうしたの?というようなイヴの視線を受けて、クウヤは黙って純白の扉を見つめ、イヴをかばうようにゆっくりと立ち上がり、つぶやいた。
「何か・・・いる」
「あら、あなたいい感持ってるわ・・・ねっ!!」
シェリルはクウヤに微笑みかけた直後、その愛らしい笑顔のまま右手で鞭を振りかぶり、思い切りしなりをつけて扉に叩き付けた。
すさまじい音を立てて扉が破壊されると、その木片の間から人影が踊り、テンポよく駆け抜ける足音が響く。
蛇のようにうねる鞭の間を一直線に駆けるのは金髪をツインテールにした黒いメイド服の少女。
片手には精巧に装飾された柄の短剣、マインゴーシュ。それを正確にシェリルへと向けてくる。
「メイドの刺客ってはじめてだわ。雇い主はいい趣味ねっ」
シェリルは鞭を両手で握り、その刃を受け止めてしなりをつけてなぎ払う。
「っ、止めないと・・・っ」
ティーテーブルで唖然とこのやり取りを見守っていたイヴは、クウヤの服のすそをつかんでどうしようと兄を見上げる。
だがクウヤは首を振り、ティーテーブルからティーポットとティーカップを運ぶとイヴをかばいながら歩き、被害が来ないであろう窓辺に座った。
「あのメイドは皇女を殺そうとはしてない。何か用があるか、その力を認めてもらおうとしているんだろ」
「そ、そうなの兄さん?」
ティーカップに紅茶を注いだクウヤは、イヴがおどおどしながら隣にちょこんと腰掛けたことがうれしいらしく、場違いなほどにっこり笑っていた。
「まぁ俺も止められるけど、あの鞭に当たったらしゃれにならないからね。ツヴァイから以前聞いたけど、前こんな風に盗賊が侵入してきて、そのうちの一人はあの鞭にあたって死んでしまったんだとさ。だから俺はあれには近づきたくないんだ」
そうクウヤがつぶやいた瞬間、鋭い金属音が部屋中に響き渡り、空中にひらりとマインゴーシュが踊った。
両手に蛇のように絡みつくムチを持ち勝ち誇ったように微笑む皇女の視線に、メイドは表情ひとつ変えずに見つめ返す。
その一秒後、固い大理石の床にマインゴーシュの刃が突き当たり、耳障りな金属音を響かせて床に転がる。
それを合図にシェリル皇女はムチを降ろし、メイドを物珍しげに眺めた。
「なかなかの腕ね。あなた、何しにここに来たのかしら?」
齢13とは思えないほど堂々とした物言いに、メイドは意を決したように口を開いた。
「皇女のもとに居るシュナイテッター伯爵の娘を取り返しに来ました」シュナイテッター伯爵の娘って、誰?と首を傾げて聞き耳を立ててお茶を飲んでいた幻術師兄妹は、皇女の後姿を見つめた。
不思議なこのメイドの少々挑戦的な言葉に皇女がどういった反応を見せるか気になったのだ。
下手したら逆上した皇女のムチがこっちまで飛んでくるかもしれない。
だが皇女はにやりと微笑んで納得したようにメイドを眺めた。
「なるほど、どっかで見た覚えがあると思ったら、シュナイテッター家のメイドね?舞踏会にも居たわよね?」
メイドが黙っていると、皇女は諦めなさいとでも言うように首を振った。
頭が左右に動くのに釣られて頭上の大きなリボンがゆれる。
「エディはなかなかいい駒だから、捨てるのにはもったいないのよ。エディの代わりになるような手駒は”今のところ手持ちに居ないし?”」
その口調はメイドが何のためにここに来たのかを知っているような口ぶりであり、メイドは一瞬顔をしかめたが話が早いとばかりに頷いた。
「お嬢様の代わりに、私があなたの手駒になります」
皇女は悪魔的な笑みを浮かべると、空色の瞳でメイドを見つめた。
「そうねぇ、考えてあげても良いわ?あなたが使えるかどうか試すことにしてあげる。——三日後にちょっとした遠征があるのよ。それに参加してもらえるかしら?」
にっこり微笑んだシェリル皇女の微笑を見たメイドは頷き、ツインテールを揺らしながらお辞儀をした。
「リン・ミルネランス、あなたにお仕えいたします」
リンは心の中で、エディやゼルフ、シュナイテッター伯爵のことを思い出し、思わず泣きそうになった。
今まさに自分は、悪魔に魂を売ったような気がした。
微妙に訂正