複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照2800ありがとう御座います! ( No.340 )
- 日時: 2013/10/26 22:36
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: onX1rF7w)
041 カメルリング王国ルート
「あなたも懲りない人ですね、陛下・・・私は武器発明なんてしません」
謁見の間に凛々しい声が響き渡る。が、その声は疲労を含んでいた。
「設計図を書くだけでもよい。案を出すだけでもよいと言っているだろうが」
一方で若くはないが渋みのある声が、まだ余裕そうに響き渡る。
現在何人の立ち入りも許さない謁見の間では、発明家と国王がにらみ合いをしていた。その光景を王妃と王子、発明家の執事と騎士団長がひっそりと見守っている。
と、にらみ合いをしながら奥歯をかみ締めていた発明家ことミルフィーユはちょっと足が痛んできたため、重心を変えながら再び口を開いた。
「私を幽閉したとしても、設計図ひとつ描きませんよ?もう諦めてください」
こんなところ早く出て行って、家で自分の好きな発明をしたいんですがね、と言う様にミルフィーユは金髪を撫で付けた。
それに早朝には執事のラグと撮影機もといカメラを作るのが日課になっていたため、こんなところで油を売っている場合ではないのだ。
ラグの心配そうな視線に大丈夫と頷いてから、ミルフィーユは国王の顔を見た。
美しい王妃と王子に挟まれて玉座に座る国王は思い通りにならないミルフィーユを忌々しげに眺めている。
返す言葉がないのはミルフィーユに武器の発明をさせるための良い説得法がないからだろう。
だが双方自らの意思を曲げず、謁見の間の扉は硬く閉ざされ続け、その場に居た人々が一人出席しなかった傭兵団長をうらやましく思った。
その頃、一週間カメルリング王国から姿を消した傭兵団長は自分が心底羨ましがられている事をまったく知らず、帝国と王国の狭間にある樹海にいた。
正確に言うと樹海に聳え立つ鉱山のてっぺんにいたのだが。
風当たりの強い標高付近の不毛地帯を進む彼女は途中途中振り返って眼下の景色を見つめる。
夜をそのまま閉じ込めたような黒い瞳と、切りそろえられた黒檀のような黒い髪。常に身にまとうその服装は、白い地に赤い彼岸花の描かれた着物。
西洋では見られないエキゾチックな彼女は和の国からやってきた異国人であり、その名前をツバキ・サイオンジと言った。
ツバキはやがて見えてきたその塊に、律儀に頭を下げてお辞儀した。
「今日はよい天気で、主さま」
「ツバキか。ツバキの国の挨拶だと、コンバンワ・・・だったかな」
えぇ、と微笑んで見つめた先には、球体が居た。
球体というよりは、むしろ小さな怪物といった方が正しい。
丸い球体の身体に鋭い牙と長く反り返る角のついた頭がのっかり、背骨を追うと最後には短いが立派な尾が地面の上でとぐろを巻いている。
ツバキが主さまと呼んだこの生命体は国ひとつ滅びかねないほどの力を持っている反面、心優しい平和主義者でもある。
ギザギザの鋭い牙をにっと見せてにっこり笑うその怪物は、ソレはソレで爬虫類好きにはたまらない。
「それで、ツバキの居る国は戦争を始めそうなのか?」
岩の上で寝転ぶように燦然と輝く陽の光を浴びていた怪物は、金色の瞳を細めてツバキを見つめた。
ツバキは一週間かけてカメルリング王国から出てきたので、一週間前の情報しか知らないため、おそらく、とつぶやく。
「オレをヨメナイヤツと呼ぶ連中は本当に戦好きだな」
ヨメナイヤツ—それはこの小さな怪物の名称であり、戦争を好まないため戦争しそうな国を訪問しては『コレ以上争うと国を滅ぼすぞ』と矛盾に似た脅しをするため、国の君主達からその心の内がわからず、心がヨメナイヤツ—と呼ばれている。
ヨメナイヤツは近々戦争を起こしそうなカメルリング王国とミカイロウィッチ帝国の噂を聞きつけてその狭間にやってきたのだった。
そこへ自然を愛するツバキが登山をしに鉱山を登り、そして八百万の神をあがめる信仰にしたがって、ヨメナイヤツを土地神か何かと解釈し信仰対象にしたため、彼らは比較的良好な関係を築いていた。
「昨夜は星を占う青年と年寄りの旅人が訪れて」ツバキが黙るとヨメナイヤツは日向ぼっこをしながら続けた。「近々戦争が起こると言っていた・・・不思議な輩だった」
「星を占うもの・・・それは占星術者でありんす」ヨメナイヤツが不安そうにそうつぶやくと、ツバキは岩のひとつに腰掛けながら言う。
「このあたりでは珍しいですが・・・カメルリング王国から更に西へ航海すればある”魔術師と占星術師の国、ハートレイ公国”から輩出された人であると思われますね」
だがヨメナイヤツが沈痛な面持ちで黙り込むので、ツバキは眉をひそめてたずねた。
「主さま?どうなさいました?お体の具合でも—」
「昨夜オレは星を占う青年に、戦争が止められるかどうか占ってもらった」
ツバキが心配そうにヨメナイヤツの顔をのぞきこむと、ヨメナイヤツは鋭い爪で寝そべる岩を引っかきながらつぶやいた。
「そうしたら、誰にも止められないと、止めようとすれば死ぬとそう言われた・・・」