複雑・ファジー小説
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照3000ありがとう御座います! ( No.352 )
- 日時: 2014/10/26 19:38
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: d9r3SuxE)
043 カメルリング王国ルート
焚き火を囲んで軽い食事をした後、ツバキは王国の様子を4人に尋ねた。
一週間の不在は、戦争を間近に控える国の情報を大幅に聞き逃すことになる。聖職者さえ剣を手に取る次期にまで来たのだ、少しの情報も漏らせない。
ツバキのこの問いに、炎に照らされてどこか神秘的に見えるノイアーが声を弾ませて答えた。
「きょうの朝国王が一ヶ月後にミカイロウィッチと戦争をするって言ってた!やっと戦えるっ」
青い瞳を星のように輝かせながらうれしそうに言う様子は、まるで今朝念願のおもちゃを買ってもらい早く遊びたくてしょうがない少女なのだが、実際はちがう。敵を自慢の鎌で真っ二つにしてやりたいよ目を輝かせているのだ。
「一ヵ月後でありんすか?!それはまた・・・急でありんす」
ノイアーの言葉に身を硬くしたツバキだったが、ジョレスの声に更に唖然とする。
銀の髪を炎で染めたジョレスは忌々しげに拳を握り合わせたながらつぶやく。
「昨日の真夜中・・・ミカイロウィッチの賊共がフランチェスカ王女を攻撃したんだ」
「?!王女様は?!」
自分の留守中にそんなことが起こっていたとは、と血液が激流するような焦りがツバキを襲う。
わっちはなんて愚かな事をしていたんだ!そう自分を叱咤する。
ジョレスは怒りを目に溜めて先を続けた。大事な局面で失踪していたツバキに腹を立てているのではなく、女王を攻撃した野党に本気で腹を立てているらしかった。
「フランチェスカ様はご無事だった。でも、修道院は木端微塵、崩落してしまった」
「私が戦いに最初から参加してたら全員真っ二つにしてたのに!」
ジョレスのつぶやく脇で頬をふくらませたノイアーが唸るように言う。
「だからはやく帰って訓練しようツバキ団長!」
子供がねだるようにツバキの腕を引っ張り、それからふと思いついたように「それと、今国王と謁見して缶詰のラルス団長が面倒見て欲しいっていう新入りがいるんだ」
誰?と首を傾げたツバキに、残りの全員、今まで黙って話を聞いていたリグ僧侶とキリエ牧師も同時にその名前を言った。
「ルーク・ブランドリス—というのが貴殿か」
馬を走らせほぼ半日でカメルリング王国の王都へ帰ってきたツバキは、疲れていたが強靭な精神力でそれを押さえ込み、目の前の少年に集中した。
ここは魔導師たちの研究部屋。薄暗く、四方を本棚にかこまれた図書室。そこで少年、ルーク・ブランドリスは少し緊張したようにツバキを見ている。灰髪に黒い目、西洋ではめずらしい16歳のくせに幼い顔立ちの子供。質素な放牧衣装に、大きな皮のベルト。そこにねじ込まれた包丁は魔法剣だという。
「はい。あなたが、ツバキ・サイオンジ団長ですね」
そして何か言いたげな顔をしていたが、黙ることにしたらしい。ただツバキの帯刀した刀を物珍しげに見た。
「騎士になられたらしいが、剣を扱えないと聞いている。わっちは刀とともに小太刀も扱うのでその包丁の扱いを受け持とう」
「魔導は私たちに任せてもらおう」
ツバキの横で、腕組みしたカルマ・ファウストスが実験動物を見つめるように微笑んでいる。少々呆れながらユニート・トラシヴァがメガネをかけなおし、言う。
「魔法剣フランベルジュを一応使えるように、ラルス騎士団長が長剣を教えてくれる」
「ありがとうございます!」
ルーク少年は嬉しそうな、もう引き返せないような深刻な表情と共にお礼を言った。
しかしそもそも、魔導剣士に産まれついたからには、後戻りできる選択肢はないのだ。